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ひとの気も知らないで  作者: 原田楓香
53/61

53. さみしさの克服方法


「ダイ。元気?」

 想子さんからのビデオ通話だ。

 毎日1回、想子さんにとっては夜寝る前、僕にとっては朝の始まりに、僕らは会話を交わす。どうしても、それが出来ないときは、メールをやりとりする。

 

 想子さんは、自分の部屋のベッドの上で、僕に似ている古墳のぬいぐるみを抱きかかえている。

「元気やで。たった一日で、そんなには変わらへんて」

 僕は、ちょっと笑ってしまう。いつも想子さんとの会話の始まりは、『元気?』だ。

「そやね。でも、顔見ると安心するね」

「うん。こうして顔見てしゃべれる時代でよかったわ」

「そやね。手紙しか連絡手段がなかった時代って、めっちゃ大変やったやろうね」

「うん。ほんまやな」

 もし、今がそんな時代だったら、さみしすぎて、僕は死にそうになってると思う。テレくさいから口に出しては言わないけど。


 昔、小学生の頃、誰か友達が言ってた言葉を思い出す。

「ハムスターってな、さみしがりやで、さみしすぎたら死んでしまうんやって」

 ハムスターを飼っている子が、そう言うのだから、まちがいない。僕は思った。

(なんてけなげで可愛いやつなんだ。ハムスター。もし、いつかハムスターを飼ったら、絶対その子にさみしい思いはさせへん)

 僕を含め、その場にいた子は、みんなそう思ったらしく、真剣な顔になっていた。

 以来、さみしいという言葉を聞くと、僕の頭の中には、なぜか、涙を浮かべて倒れている『とっとこハム太郎』が思い浮かぶようになった。(生きている実物を見たことがなかったので、どうしてもハム太郎が先に浮かぶ)


「模試は、どうやった?  結果でたん?」 想子さんが、言う。

「うん。まあまあ、かな」

 判定は、一応、Aだった。けど、これはあくまで模試の結果なので、僕は慎重に答える。

「そっか。よかった」

「そっちこそ、レポートは仕上がったん?」

 想子さんは、仕事しながらのんびり過ごす、と言ってたけれど、結局、向こうで、アートスクールに入って、課題やレポートに追われたりしている。

「なんとか。でもさ、レポート書こうと思ったら、まずは、英語で書かれてる資料読まなあかんから、たいへん」

「ふふ。がんばれ」

「受験生のときより、勉強してる気がする」 想子さんは、ぼやく。

「まあ、ここにいる受験生もがんばってるし、一緒にがんばろな」

「そだね。あ、ダイ、そろそろ時間。勉強開始」

「うん。じゃあ。また、明日」

 切れた電話を横に置いて、僕は、勉強を始める。


 今の僕は、想子さんのおかげで、1つの技を身につけた。

 それは、さみしさの克服方法だ。

 想子さんの取扱説明書に書いてあった言葉を、僕は、何度読みこんだか分からない。


① さみしくてたまらないときは、

大好きなひとの名前を、心の中で呼ぶ。できるだけ、ゆっくりと心を込めて。

※ 周りに人がいないときは、声に出して。

② それでもどうしても、さみしさがおさまらないときは、

  思い切って、さみしさに浸ってみる。 思いっきり浸ってみる。

  さみしさは、愛だから。

 さみしさが強いほど大きいほど、愛が強くて大きいってことだから。

  その想いに思いっきり浸るといい。

      

  

『ひとの気も知らないで』

 お互い、心の中で、そうつぶやいていた僕ら。

 言葉にしないと伝わらないもの、

 伝えようとしないと伝わらないものが、ある。


 今度、直接会えたときには、きっと僕は、思いきり彼女を抱きしめる。

 そして、きちんと伝えよう。僕の口から。

「人生を一緒に、僕と歩いてください。ずっとそばにいてほしい」って。

 自信を持って、そう言えるように、自分を精一杯磨く。


(想子さん)

 心の中で呼ぶ。――――できるだけゆっくりと。

「想子さん」

 声に出して呼ぶ。

 胸いっぱいに、想いがあふれてくる。

(大好きやで。想子さん)


 さあ、僕の一日が、始まる。


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