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ひとの気も知らないで  作者: 原田楓香
51/61

51.  なにこれ?


 想子さんを乗せた飛行機は、夜空の向こうへ飛び立っていった。

 今、僕のそばに、想子さんはいない。 僕の手に残されたのは、想子さんのかすかな温もりと約束だ。往きに2人で乗った電車に、帰りは僕1人で乗る。

 『めちゃくちゃさみしいのに幸せ』という、不思議な精神状態で、僕は家路をたどる。さみしい、さみしくない、さみしい、さみしくない、さみしい、……一足ごとに、まるで花占いする子どものように、心でつぶやく。

 家の前に着いたとき、それは、ちょうど『さみしい』で終わった。

 帰り着いた家は、真っ暗で、人の気配が全くなくて、なんだか空っぽの箱のようだ。 2人が1人に減るだけで、こんなに空気が違うとは、思わなかった。

 

 でも、僕の心の中に、新しい風が吹いている。そして、その新しい風に吹かれながら、僕の心の中の特等席に、笑顔の想子さんが座っている。そして、僕に向かって、一生懸命手を振っている。

 鍵を開けて、家に入る。洗面所で手を洗ったあと、僕は2階に上がり、想子さんの部屋に行く。

 枕カバーやシーツの洗濯を頼まれたけど、今日はまだ、想子さんの気配を、そのまま残しておきたい。だから、僕は、ドアのところから、部屋をのぞいて、すぐにドアを閉める。


 自分の部屋に戻ってパソコンを立ち上げると、両親からのメールが届いていた。 想子さんが、無事予定通りの飛行機に乗ったことを確認するメールだ。空港に迎えに行ってくれるそうだ。

 何でもいつも平気そうにしている想子さんだけど、実は、けっこう臆病なところもある。だから、両親が空港で出迎えてくれたら、きっとホッとして、とても喜ぶだろう。

 

 お風呂から上がって、リビングに戻ると、家の中は静まりかえっている。今日からしばらく、僕は、この家で1人で過ごすことになる。

 両親は、想子さんと先輩の2人に、向こうでの暮らしのあれこれを、引き継ぎ? してから、帰ってくることになっている。 

 静かすぎるのが、落ち着かなくて、テレビをつける。にぎやかなバラエティ番組、出演者の笑い声が聞こえる。いつもなら、想子さんが一緒に笑うところだ。僕ひとりだと、笑えない。

 正直、さみしい。とても……とても。

 でも、想子さんと、今までで、一番大きな約束を交わした。そのことが、かろうじて僕を支えている。

 

 テレビの会話がまるで頭に入ってこないので、テレビを消して、想子さんの部屋に行ってみる。

灯りをつけると、いつもの想子さんの部屋だ。彼女のお気に入りの本がいくつか本棚から消えている。僕の作った古墳のぬいぐるみも、今はベッドの上にいない。想子さんより一足先に、彼は旅立っていて、イギリスで彼女を待っている、はずだ。


 想子さん。

 『ひとの気も知らないで』って、僕に言った想子さん。僕、そんなに鈍感やったかなぁ? 

ほんとのことを言うと、ちょっと納得いかない。伝えられないもどかしい想いを、ずっと抱えてきたのは、僕の方やでって思う。いつも、するりとかわしてきたのは想子さんの方だ。

 「なんでやねん」

 つぶやいて、彼女のベッドの上にそっと寝転がる。ほんのり想子さんの匂いがする。想子さんの腕に包まれているような気がする。

 (あかんあかんあかん。 なんかやばい妄想してしまいそう……)

 僕は、あわてて跳ね起きて、ベッドの上に座り直し、彼女の枕を膝の上に抱えて、アゴを乗せる。

 『大好きやで』

 空港で、想子さんが言ってくれた声が僕の耳によみがえる。顔が真っ赤に火照る。あのときは、赤くなる暇もなかった。もし、今頃、真っ赤になっている僕を見たら、想子さんに確実に僕はいじられてるはずだ。

 そのとき、ふと周りを見回した僕の目に入ったのは、小さな封筒だった。想子さんの枕のあったあたりに、ちょこんとのっている。

 「なにこれ?」 僕は、封筒に手を伸ばした。



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