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ひとの気も知らないで  作者: 原田楓香
48/61

48.  あるかな?


 特製野菜ジュースで、微妙にお腹が膨れてしまったので、昼食は、軽めにすることにした。

 「おにぎりがいい」

 想子さんが僕にリクエストする。『ダイが作ったら、握ったときの力加減が絶妙にいいねん』と、彼女は言う。

 「ええよ。 具は何にする?」

 「おかか、昆布、梅、サケ」

ラップにご飯をのせて、真ん中に具を置き、ラップで包んだおにぎりを握る。

 「ダイの三角おにぎり最高!」 そう言う想子さんの笑顔も最高だ。

 「そう?」 笑い返しながら、僕もちょっと嬉しい。

 想子さんは、人を乗せるのが上手い。まんまと乗せられた僕は、せっせとおにぎりを握りまくる。そのとき、想子さんが、「あ! たいへん、忘れるところやった!」と言った。

 「何なに? どうしたん?」

 「おにぎりの具。 1個食べたいやつ忘れてた」

 「これやろ? 天かす&だし醤油」 僕は、天かすの袋とだし醤油を冷蔵庫から取り出す。

 「ピンポン! さすが、ダイ」

 深めの小皿に、天かすをいれて、そこにだし醤油をかけて、混ぜる。天かすに醤油がしみて、おにぎりにいれると、ちょっと美味しい。軽く粗挽きの黒こしょうもかけると、ちょっとしたアクセントになる。

 「ダイ。 イギリスに、天かすってあるかな?」

 「そりゃ、あるやろ」

 「そうかな? なかったら、送ってな。カツオ節も」

 「大丈夫って。 あるやろ。」

 「梅干しは?」

 「あるって」

 「昆布は?」

 「あるある」

 「ダイの握ったおにぎりは?」

 想子さんが、なんだか目をうるうるさせている。

 「あれへんな。さすがに、それは」 

僕は、精一杯平静を装って、言う。

 想子さんが、目をゴシゴシこすっている。小さい子みたいに。子猫みたいに。

 そんな彼女を見ていると、逆に、僕の気持ちは少し落ち着いてきて、

 「……あほやなぁ。 今から、ホームシックになってんの?」 思わず、言う。

 「う」 想子さんの答えは短い。

 「……だったら。 さみしかったら。 さっさと帰ってきたらええねん。ってか、さっさと帰っておいで」

 「う」

 「見たいもん見て、やりたいことやったら、帰っといで」

 「う」 うつむく想子さん。

 僕は、おにぎり作りを中断して、想子さんの頭を両腕の中に抱え込んで、言う。

 「どうしても、僕のおにぎり、食べたなったら、作りに行ったるし。 やから、いっぱい、楽しんでおいでよ」

 「うん……」

  

 (ほんとは、行くなって、言いたいくらいやのにな)

 気づいたら、いつの間にか、僕は、想子さんを励ましていた。

 ひとの気も知らないで、僕の腕の中で、想子さんは、小さくうなずいている。


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