48. あるかな?
特製野菜ジュースで、微妙にお腹が膨れてしまったので、昼食は、軽めにすることにした。
「おにぎりがいい」
想子さんが僕にリクエストする。『ダイが作ったら、握ったときの力加減が絶妙にいいねん』と、彼女は言う。
「ええよ。 具は何にする?」
「おかか、昆布、梅、サケ」
ラップにご飯をのせて、真ん中に具を置き、ラップで包んだおにぎりを握る。
「ダイの三角おにぎり最高!」 そう言う想子さんの笑顔も最高だ。
「そう?」 笑い返しながら、僕もちょっと嬉しい。
想子さんは、人を乗せるのが上手い。まんまと乗せられた僕は、せっせとおにぎりを握りまくる。そのとき、想子さんが、「あ! たいへん、忘れるところやった!」と言った。
「何なに? どうしたん?」
「おにぎりの具。 1個食べたいやつ忘れてた」
「これやろ? 天かす&だし醤油」 僕は、天かすの袋とだし醤油を冷蔵庫から取り出す。
「ピンポン! さすが、ダイ」
深めの小皿に、天かすをいれて、そこにだし醤油をかけて、混ぜる。天かすに醤油がしみて、おにぎりにいれると、ちょっと美味しい。軽く粗挽きの黒こしょうもかけると、ちょっとしたアクセントになる。
「ダイ。 イギリスに、天かすってあるかな?」
「そりゃ、あるやろ」
「そうかな? なかったら、送ってな。カツオ節も」
「大丈夫って。 あるやろ。」
「梅干しは?」
「あるって」
「昆布は?」
「あるある」
「ダイの握ったおにぎりは?」
想子さんが、なんだか目をうるうるさせている。
「あれへんな。さすがに、それは」
僕は、精一杯平静を装って、言う。
想子さんが、目をゴシゴシこすっている。小さい子みたいに。子猫みたいに。
そんな彼女を見ていると、逆に、僕の気持ちは少し落ち着いてきて、
「……あほやなぁ。 今から、ホームシックになってんの?」 思わず、言う。
「う」 想子さんの答えは短い。
「……だったら。 さみしかったら。 さっさと帰ってきたらええねん。ってか、さっさと帰っておいで」
「う」
「見たいもん見て、やりたいことやったら、帰っといで」
「う」 うつむく想子さん。
僕は、おにぎり作りを中断して、想子さんの頭を両腕の中に抱え込んで、言う。
「どうしても、僕のおにぎり、食べたなったら、作りに行ったるし。 やから、いっぱい、楽しんでおいでよ」
「うん……」
(ほんとは、行くなって、言いたいくらいやのにな)
気づいたら、いつの間にか、僕は、想子さんを励ましていた。
ひとの気も知らないで、僕の腕の中で、想子さんは、小さくうなずいている。




