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ひとの気も知らないで  作者: 原田楓香
45/61

45.  聞いてもいい?


 「もう、むり」

 「まんぷく」


 想子さんの旅立つ日が、いよいよ明日に迫っている。

 夕食は、想子さんのリクエストで、手巻き寿司にした。2人で、買い物に行って、食材を仕入れ、具材の準備をする。僕らは、刺身だけでなく、炒めて甘辛く味付けた牛肉や、甘めの味付けの卵焼きも用意する。これは、どちらかというと僕の好みだ。想子さんは、ゆでた人参とか、サラダ菜やきゅうりとか、しっかり味のしみた高野豆腐やかんぴょうも、お気に入りだ。

 このところ、連日、想子さんの食べたいものが、毎日食卓に並ぶ。でも、僕らの好みは、ほぼほぼ同じなので、想子さんの食べたいものは、僕にとっても好物なのだけど。

 

 たらふく食べて、想子さんが言った。

 「もうむり」

 僕も、答える。

 「まんぷく」

 「もう動かれへん」

 想子さんがお腹をさすっている。

 「僕もや。でも、……ケーキあるけど、どうする?」

 想子さんの大好きなフルーツたっぷりのケーキが冷蔵庫の中にある。しかも、ホールで。

 「う~ん。……べ、別腹。といいたいところやけど、さすがに今すぐは、無理かも」

 「たしかにな。僕も、今すぐは無理や」

 「じゃあ、何か腹ごなしに運動でもする?」

 「じゃあさ、庭に出て、花火でもする?」

 「いいねぇ。ちょっと待って、線香花火、買ってきたやつ、1袋くらい残ってたと思うから、取ってくる」

 想子さんが、自分の部屋に駆け上がる。

 その間に、僕は、テーブルの上を片付ける。手早く食器を流しに運び、残った食材にラップをかけて、冷蔵庫に入れる。

 「あかんわ。この間、全部使い切ってたみたい。さがしたけど、なかったわ」

 2階から降りてきて、残念そうに、想子さんが言った。

 「そっか。まあ、しゃあないね。じゃあ、花火の代わりに、星でも見ようか」

 2人で、部屋の電気も消して、暗い縁側に座る。

 暗さに目が慣れてくると、空には意外にたくさんの星が輝いているのがわかる。


 そういえば、去年の夏も、2人で花火のあとに、こうして、星空を眺めたっけ。

 あの日、想子さんも僕も、それぞれに友達だと思っていたひとから告白されて断ったのだった。僕は、そのことは、想子さんには言わなかったけど、想子さんは、告白されたと話したので、僕は、びっくりしてめちゃくちゃ動揺したのだった。

 あれから、もう一年近くが過ぎたのか。

 あの日と同じように、隣に座った想子さんが、僕の肩に、そっともたれて空を見上げている。

 そして、おもむろに、言った。

 「ねえ、ダイ。 ひとつ聞いてもいい?」

 「な、なに?」 (何を言うつもりなん?)

 僕の声がうわずる。 胸の鼓動が一気に早くなる。 

 すると、想子さんは、僕にもたれたまま、ちょっと間延びした声で言った。―――ひとの気も知らないで。

 「あのさ、星、きれいでええねんけど、これって、運動になるかぁ? 逆に、お腹落ち着いてきてしもて、なんかもう、何も入る気ぃせえへん」

 (そ、そんなことか~い、聞きたいのは……。こら、想子さんのあほ。 僕のときめきを返せ)

  心の中で、僕は、想子さんに力一杯苦情を申し立ててから、彼女の肩を抱えて、立ち上がる。

 「……ならへんな。よし、体操や。ラジオ体操でもしよか」

  2人で、つっかけを履いて、庭に降り立つ。

 

 第一と第二を1セットやったけど、まったく、お腹に影響はない。

 「焼け石に水って、こういうことなんやね」

 僕がつぶやくと、

 「ちょっと違う気もするけど……」

 言いながら、想子さんは、続けて2セット目を始める。

 「明日、飛行機の機内食がっつり食べるためにも、お腹減らしとかな」

 そして、一生懸命、伸び上がったり、脚を曲げたり伸ばしたりしている。

 「想子さんてば……」

 僕は、思わず、声に出して笑ってしまう。


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