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ひとの気も知らないで  作者: 原田楓香
43/61

43.  叶う?

 

 雨だ。 結構、大粒で、激しい雨が降っている。

 最寄り駅について、改札を抜けた僕は、空を見上げて、ちょっとため息をつく。今日、傘は持ってない。

 朝、テレビで見た天気予報では、降るのは、深夜になってからといっていたので、傘を持たずに出てきたのだ。


 改札を出て、道一本隔てたコンビニで、ビニール傘を買うか?

 そう思って、一歩足を踏み出そうとしたところで、

 「ダイ!」

 想子さんが、目の前に飛び込んできた。

 「傘、持って行かんかったな、と思って」

 「迎えに来てくれたん?」

 「うん。ほら」

 想子さんは、黒い大きな傘を僕に差し出す。自分は、水色の、前に僕が誕生日に贈った傘を差している。

 「ありがと」

 予想していなかったので、僕は、ちょっとドギマギしてしまう。目をパチパチさせながら、傘を開く。

 「おっきい!」

 僕の開いた傘を見て、想子さんが目を丸くする。そして、次の瞬間、ニコッと笑って、

 「こっちに入っちゃおう」

 彼女は、僕の傘に入ってきた。自分の水色の傘をたたんで、僕の隣に並ぶ。

 「いいけど。2人には、ちょっとせまいかもしれへんよ」

 「いいよ。濡れるときは、2人で濡れよう」

 「……ふふ。そやな。それもいいな」

 僕は、肩にかけたカバンを、想子さんのいない側にかけ直す。

 

 2人で、駅舎の庇から、道に踏み出す。

 「ねえ」

 「ん?」

 「ちょっと寄り道せぇへん?」

 「どこに?」

 「誉田八幡宮。なんかさ、おみくじ引きたいな」

 「ええよ。行こか」

 

 (僕は、どこにだって、行くよ。想子さんが行きたいところなら)

 今から、地獄へ行こう、と誘われたって、……ええよって、言ってしまうと思う。

 雨の中を、2人並んで歩く。

 傘は大きいから、僕の肩が濡れるほどではないけど、肩にかけたカバンは、けっこう濡れている。

 でも、カバンより、僕の意識は、ひたすら、僕の隣で並んで歩く彼女に向かっていく。

 細い肩。その肩より少し長めの、ゆるくウェーブのかかった髪。白い丈の長めのシャツが似合っている。

 雨と傘で、周りの世界が、遮断される。傘を打つ雨の音が、僕らを、2人だけにする。

 

 「ダイ」 想子さんが、僕を見上げる。

 「うん?」 

 「こうしてると、なんか、この世界に2人だけ、みたいな気持ちになるね」

 「うん。そやな。雨の音と傘で、周りの世界が遮断されたみたいな感じになるね」

 「……わるくないね」

 「……いいよね」

 

 角を曲がったところで、横から、急に出てきたバイクが、道路のでこぼこにたまった水を撥ねる。

 その瞬間、僕は、反射的に想子さんの肩を抱き寄せた。

 「大丈夫?」

 「だいじょぶだいじょぶ」

 想子さんが、笑う。

 (あかん。可愛すぎ……)僕は、彼女の肩に回した腕をはずせない。はずしたくない。

 「……なあ」

 僕は、意を決して言う。

 「このまま、肩に、腕、あっても、いい?」

 肩を抱く、とは言えなくて。

 「ええよ。なんか、あったかいしね。たのもしくて」


 初めてだ。

 想子さんに、頼もしい、って言われたの。

 僕は、またまたうっかり泣いてしまわないように、一生懸命、しゃべる。

 今日学校であったことを、面白おかしく、とにかくしゃべる。しゃべりまくる。

 そんな僕の話を聞いて、想子さんが、同じ傘の下、笑い転げる。


 やがて、八幡宮に着き、僕らは大きな鳥居を見上げる。鳥居の真ん中に、八幡宮の文字が書かれた表札のようなものがある。

 「ねえ。 知ってた? この、八の字。鳩やねんで」

 想子さんが言うままに、見上げると、八幡宮の八の字は、確かに、向かい合った鳩の姿だった。

 「ほんまや。 知らんかった。ってか、今まで何回も見てたはずやのにな。気ぃつかんかった」

 「そやね。ずっと見てるようで、見えてないこと、分かってないことって、いっぱいあるよね。私も、本読んで、初めて知ってん」

 

知らないと見えないこと、気づけないこと。

知らせないと、見てもらえないこと、気づいてもらえないこと。

 

 僕は、この想いを、いつどんな形で、彼女に伝えればいいのだろう。

 伝えないまま、この想いを心の奥にずっと秘めていくことになるんだろうか。

 

 (ねえ、想子さん。……伝えてもいいかな? 待ってるって。だから、ぼくのところへ、帰ってきてって)

 僕は、境内を並んで歩きながら、心の中で訊く。

 想子さんは、お参りしようとして、賽銭箱の手前で、ポケットを探る。

 「あ! お財布忘れた!」

 「大丈夫。今日は、僕が持ってるよ」

 「じゃあ、100円。それと、おみくじ用に、200円」

 僕は、財布から、100円玉を6コ取り出す。3コを彼女に、残り3個は自分用に。

 そして、想子さんのイギリス行きの無事と、僕の受験の成功を2人で祈る。

 

 手を合わせて、顔を上げると、隣にいたはずの想子さんは、すでにおみくじの箱のところに移動していた。

 そして、引いたおみくじを開いて、僕に、見せる。

 ひとの気も知らないで、想子さんは、「ほら! 大吉! 幸先いいね!」 顔中を笑顔にして僕に言った。

 僕も、引く。 中吉だ。

 でも、それよりも、僕の目を引いた一文がある。

 ――――『願い事、叶う』


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