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ひとの気も知らないで  作者: 原田楓香
40/61

40.  肝心なこと


「想子さん、何色がいい?」

 想子さんと僕は、手芸用品の店に来ている。

僕は、前に想子さんに前方後円墳のぬいぐるみを作ってあげる約束をした。

想子さんは、受験が終わってからでいいと言っていたけど、気分転換もかねて、勉強の合間に作ることにしたのだ。

 「えっとね。明るい緑。若草色みたいな。 で、なるべく柔らかい手触りの布がいいな」

2人で、いろんな布地を見て歩く。

 

 「大きさは?」 僕は訊く。

 「抱きかかえられるくらい」 想子さんが、両腕を広げてみせる。

 「なるほど。色は1色で? それとも、何色か、パッチワークみたいに組み合わせる?」

 「明るい緑、1色で」

 「了解」

 中の詰め物は、クッション用の細かいビーズ。

 僕らは、古墳のぬいぐるみ2つ分の材料を買った。

  

 帰り道、来るときに見かけた和食の店に入る。

この頃、想子さんは、和食にハマっているのだ。

日本にいるうちに、できるだけ食べておきたいと言う。

想子さんは、鯖の味噌煮定食を選び、僕は、サワラの西京焼き定食を注文した。

メニューの写真を見ているとき、想子さんの視線が、その2つの間を行ったり来たりしていたから、おそらく、彼女は、最後までその2つで迷っていたはずだ。

案の定、

 「ダイ、サワラも半分味みせてな」 想子さんがにっこりして、言った。

 「ん? もちろん」

そういうと思った。予想通りだ。

 僕は、心の中でちょっと笑ってしまう。

 (こういうときは、想子さんの心が簡単に読めるのにな)

   

一番知りたい、肝心なことに限って、僕にはまったくわからない。

なんだかちょっと情けなくて、くやしい。


 運ばれてきた、温かいお茶を美味しそうに、飲みながら、想子さんが微笑む。

 そして、ひとの気も知らないで、嬉しそうに言う。

 「ダイとこうやって、向かい合ってご飯食べるのって、一番ホッとする」

 「そうか」

 「そやで。ご飯は、誰と食べるかが、一番大事やもん」

 「そやな」 僕は、ついつい答えが短くなる。

(そやったら、行くなよ。僕が受かったら、一緒に京都に行こうや……)

  僕は、ついついそんな言葉が喉元までこみ上げる。

 もちろん、口に出しては言わないけど。


一緒にいられる時間が、一日一日減っていく。

そう思うと、うっかり涙ぐんでしまいそうになる日もある。

  『行くな。 いつでも会えるところにおってや。 

どうしても行きたいなら、いつか、僕と一緒に行こう』

―――そう言えたなら。


 運ばれてきた僕のサワラは、半分近く、想子さんのお皿に旅立っていき、

代わりに、想子さんの苦手な椎茸の煮物が、僕の皿で、2枚になった。

「ちょ、待って。僕も、椎茸そんなに好きとちゃうで」

「かわりに、鯖、半分あげるから」

 ……しゃあないなぁ。 想子さんてば。


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