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ひとの気も知らないで  作者: 原田楓香
33/61

33.  同じ気持ちなら


「ねえ、ダイ。 ここ、藤井寺市とちゃうで。いつのまにか、ここ羽曳野市やわ」

想子さんが言った。

「え? あ、ほんまや。藤井寺市、通り越してしもたみたいやな」

 僕も、道端の電柱に貼ってある住所表示を見上げる。

 羽曳野市は東西に長く、その真ん中に、藤井寺市が包み込まれるように位置している。

 僕らは、今、藤井寺駅にほど近いアイセルシュラホールを目指して歩いているところだ。

 そこでは、古墳群に関する資料展示もあるし、百舌鳥・古市古墳群の古墳や関連施設を巡って撮った写真を提示すると、『もず・ふるカード』というのをもらえる。

 全67種類ある、そのカードを、僕は、前から少しずつ集めているのだ。コンプリートまでは、まだまだ遠い道のりだけど。

  


 今日は、朝から天気がよくて、机に向かうのに飽きた、想子さんと僕は、近鉄南大阪線の古市駅をスタートに、古墳群ウォーキングに出かけた。

 駅前ロータリーの前を通り越し、西に進んで、左側の住宅街に入っていくと、目の前に、堀に囲まれた白鳥陵古墳がある。 

 この地には、伊勢で亡くなったヤマトタケルノミコトが白鳥になって、飛来したという伝説がある。

 今、堀には、白鳥のかわりに、僕が名前を知らない、白い小さな鳥の姿がある。

 その堀の横を、2人で、てくてく歩く。 御陵の緑が新鮮で、気持ちいい。


「目に良さそう。ダイ、しっかり緑見て、目を休めるねんで」

「うん。想子さんもな。パソコン仕事多いねんから」

「そやな。 それにしても、ここの御陵も結構、大きいよね。前方後円墳なんやろ? 上から見てみたいね」

「そやな。 前方後円墳の形って、なんか可愛いよな」

「うん。あの形のクッション、めっちゃほしい。でも、売ってるやつは、けっこう高いからなあ」

「自分で作ったらええねん」

「まあ、そうやねんけど……」

 僕の言葉に、想子さんは、少し口ごもる。

 想子さんは、裁縫はあまり得意じゃないのだ。

 僕は、けっこうミシンを使うのは好きだ。

「あのさ、そのうち、僕が、想子さんのお好みのサイズと色で、作ったげるよ」

「ほんま? やった~! あ、でも、受験終わってからでええからね」

「はいはい」


 さらに、そのままてくてく進むと、左手に、峯ヶ塚古墳が見えた。

 ここは、たくさんの武器や武具、装飾品などの副葬品もたくさん出土している。

 最近でいうと、ほぼ完全な形の円筒形埴輪や大阪府下で初めての木製埴輪も出土し、けっこう注目度が高い場所だ。

  

 それぞれの古墳の横を歩きながら、僕は、時々スマホで写真を撮る。

 ついでのようなふりをして、横を歩く想子さんを、さりげなく写真に収める。

 自然な表情を撮りたい僕は、彼女がぼーっとしてるすきをねらってシャッターを切る。

 そのせいか、スマホの画面には、ちょっと間の抜けた顔の想子さんばかりが並んでいる。

(う~ん。もっと可愛いところも撮りたいねんけどな)

 そう思う一方で、その間の抜けた顔も、ちょっと愛おしくて、自然に笑いがこみ上げる。

「何よ。ちょっと、何笑ってんの?」

 想子さんが、僕の手元をのぞき込む。

「あ。なにこれ? いつの間に撮ったん? なんで? わたし、めっちゃ間抜けな顔してるやん。どうせなら、もうちょっと可愛く撮ってや~」

 想子さんは、少し不満そうにふくれている。

「いや、僕のスマホは、正直やねん。必要以上に盛ったりせえへんから」

「なにそれ。盛らんかったら、可愛く写らんとでも?」

「へへへ~」

 僕は笑って、想子さんの文句を受け流す。

 そして、その少しふくれた顔も可愛いけどな、と秘かに思う。

 でも、もちろん、それは言わない。

 ひとの気も知らないで、想子さんは、言った。

「あのさ、今度シャッター切るときは、ちゃんと言うてや。極上の笑顔したるから」

「へいへい」


 峯ヶ塚古墳からは北進して、野中寺を経由し、アイセルシュラホールを目指す。

 その途中で、今、道に迷っているというわけだ。

 おしゃべりしながら、何も考えずに適当に歩いたのがいけなかった。

 シュラホールは、藤井寺市にあるのに、今、僕らがいるのは、羽曳野市だ。

「あ、ちょっと待って、あそこに案内板がある」

 僕は、道の脇に案内板を発見した。

「……えっと、今、ここやから、え~、知らん間にめっちゃ通り過ぎててんや」

「だいぶ戻らなあかんね。……なんか損した気ぃする」

 想子さんは、少し悔しそうだ。

「まあな。でも、その分、昼ご飯は、美味しいもん、がっつり食べよな」

「そっか。そやね」

 美味しいもん、というワードで、一気に想子さんの顔が輝く。

「じゃあさ、シュラホールの後は、藤井寺駅前でランチしよ。確か、美味しいイタリアンのお店があった気ぃする」

「いいね~」

「よ~し、行こう行こう」

 想子さんの足どりが、急に軽やかになる。

 いや、それは、僕もか。


(でも、僕は、想子さんとなら、道に迷うのも、楽しいねんけどな)

 前を行く想子さんの背中も、なんだか嬉しそうに見える。

 僕は、そっと、心で願う。

(同じ気持ちならいいな……)



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