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ひとの気も知らないで  作者: 原田楓香
32/61

32.  約束


「なあ、想子さん」

僕は、隣で空を見上げている想子さんに話しかける。

「ん? なに?」


 僕たちは、二人で、庭に折りたたみのテーブルと椅子を出して、ティータイム中だ。

この頃、陽射しの色が、透明な明るさを増したような気がする。一年中で、この時期の陽射しが、

僕は一番好きだ。

ハクモクレンが、白い花をまっすぐ空に向かって、咲かせている。

空気はまだ冷たいけれど、確実に春がやってきている。


「僕ら、春になったら、旅行するって言うてたやん」

「うん。そうやね。・・・どこにいく?」

「どこか行きたいところある?」

「う~ん。美味しいもんがあって、景色がきれいで、のんびりできるところ」

「そやな。・・・乗り物はどうする?」

「列車でのんびり、がいいな」

想子さんは、ちょっとお疲れのようだ。

のんびり、が2回も出てきた。 あまり遠出しない方がよさそうだ。

僕は、といえば、彼女さえいれば、行く先はどこだっていい。

正直、近所のスーパーへだって、二人一緒なら、ごキゲンで出かけるくらいだ。

「よし。決めた」

「うん?」

「春の癒しを求めて、お疲れ気味なあなたに、可愛いパンダと美味しい海鮮の旅!」

「いいね~。パンダ! そして、海鮮ときたら、白浜かな?」

「うん。天王寺から列車に乗って、のんびり。アドベンチャーワールドで、パンダ三昧。

ついでに、海の幸堪能の一泊二日」

「それ採用!」

「じゃあ、決まり。宿とか列車の切符とかは、僕が予約するわ」

「じゃあ、私、おいしそうなお店とか、調べとく。やったね!楽しみができたー!」

「うん。楽しみやね。僕、生でパンダ見るの初めてやし」

「あ、そうやったね。私は2回目。白浜のパンダって、赤ちゃんたちはちゃうけど、もう大きい子たちは

入ってすぐのところに、普通にごろごろしてるねんで。猿山のサルみたいに、見放題!」

「いっぱい写真撮ってしまいそう」

「ふふ。ダイ、パンダ好きやもんね」

「想子さんこそ」

僕のパンダ好きは、想子さんの影響だ。

パンダの写真を見せては、この子の耳の特徴はコレで、あの子は、いつも口角上がってるねんとか、

どれだけ聞かされたか。おかげで、僕まで、妙にパンダ通になってしまったほどだ。

想子さんは、キゲンよく鼻歌交じりにお茶をすすっている。

僕は、ぽそっと口にする。

「第2候補もあってんけどな」

「え、なによそれ! 早く言うて」

かじりかけたクッキーを皿において、想子さんがせかす。

「列車でのんびり、彦根の旅。美味しい近江牛とひこにゃん満喫ツアー」

「うわあ~。それもいい! めっちゃいい!」

想子さんは、ひこにゃんも好きなのだ。もちろん、近江牛も。

「ただちょっと遠いかな」

「そうやねえ。京都からなら、近そうやけど」

「うん。そやから、来年の春、僕がうまく合格したら、京都から行こうか」

「よし! そうしよう! 来年、絶対行こう!」

「うん」

僕と想子さんの間に、また一つ約束が増えた。それが、嬉しい。

約束が一つ増えるたび、僕の想子さんへの思いは、より深くなる。

僕の想いは、表に出せない分、海のようにどんどん深くなる。

きっとマリアナ海溝だってかなわないはずだ。

ねえ、想子さん。

いつか僕らは、こうして二人で過ごした時間を、一緒にお茶を飲みながら、懐かしく思い出すのかな。

それとも、懐かしむ時間もないくらい、毎日、新しい二人の時間を更新していってるのかな。

僕は、想子さんのカップと自分のカップに熱いお茶を足しながら、思う。

「ダイ、ぼ~っとしてたら、またこぼすで」

想子さんが言った。

「え? あ? ほんまや」

もう少しで、自分のカップはあふれるところだった。

「もう。やけどせんように気ぃつけてや。 ダイはだいじなひとやねんから」

想子さんは、駄洒落のつもりか、笑ってそう言った。

『ダイはだいじ』

次の瞬間、たまらなくなって、僕は思わずつぶやいてしまった。

「・・・大事より、大好きがええ」

言ってしまってから、僕は、あわてた。そして、あわてて、カップのお茶をぐいっと飲んだ。

「あっちー!!」

「もう! ほら、言ってるそばから、なにしてるん?」

ほら、水。と想子さんが差し出すグラスの水を口に含む。

落ち着かなくて、何度も瞬きする僕に、想子さんが笑って言った。

「大好きやで! あったりまえやん、大好きで、大事に決まってるやん!」

赤くなってかたまる僕に、想子さんは、力いっぱい断言する。

「これまでも、この先も、ずっとずっと大好きで、大事やよ、ダイ!」


(どういう種類の好きなん? )とは、到底聞けないけど。

でも、・・・今は、それでもいいか。

想子さんの、大好きで大事なひとでいられるなら。

僕は、口に含んだ水を飲み込んだ。 ちょっと気持ちが落ち着く。

ひとの気も知らないで、想子さんは、言う。

「当然、ダイもそうやろ?」

「う、うん」

「じゃあ、大好きな想子さんのために、あったかいココアつくってや。紅茶もいいけど、なんかココア飲みたくなった」

「マシュマロ入れる?」

「うん。雪だるまの形の3個」

「え、雪だるまのは、想子さん、自分の分もう使ったやん。あとは、僕の分やで」

「いいのいいの。細かいことは気にせんといて~」

「え~気にする~」

「じゃあ、しゃあないなあ。雪だるま2個でいいわ。 ダイが、1個ね」

僕は、キッチンに戻って、大きなマグカップに、たっぷりと熱々のココアを淹れ、雪だるまは、お皿にのせて、庭に戻る。

「雪だるまは、じゃんけんで、勝った人から1個ずつとれることにしよう」 僕は、提案する。

「おう。受けて立つ!」

想子さんは、組み合わせた手をひっくり返して覗きながら、勝つ気満々だ。

(想子さん、大好きやで)

僕は、心の中で、このまま時が止まることを、こっそり願う。


「最初はグー! じゃんけんほい!」



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