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ひとの気も知らないで  作者: 原田楓香
30/61

30. ダイエット


 「行くで。早く」

僕は、玄関から、想子さんに声をかけた。

「行く行く。ちょっと待って」

2階から、想子さんがバタバタと駆け下りてくる。


じわっと増えた体重をなんとかするために、僕らは、今日から

早朝ランニングを始めることにしたのだ。

リンゴバターと、お正月のせいだ。


想子さんは、高校時代の紺色のジャージを着ている。

髪はポニーテールだ。

高校生に見えなくも、ない。

ちょっと・・・可愛い。

一瞬、ぼ~っとしてしまった僕は、慌てて言う。

「えらい若返ってはるやん」

「ふふん。若いもん。なあ、意外とポニーテール、いけてると思わへん?」

「まあね。遠目に見たら、高校生に見えるかも」

「遠目でなくてもな」

想子さんは、玄関の下駄箱の鏡で、自分の姿を確認している。

可愛いけど、いつまでたっても、出発できない。

「可愛い可愛い」

僕は、わざと棒読みで言って、想子さんをせかす。

「なに、その棒読み。もっと感情こめて言わな」

想子さんはちょっと不服そうだ。

(感情なんて込めてたら、うっかり調子に乗って、抱きしめてしまうかもしれへんやん)

僕はこっそり、心で反論する。


「とにかく。出発!」

僕は、勢いよく声をかける。

「よし!わかった!行くぞ!」

気合の入った想子さんが、両手で拳を作って言う。

(あかんて。可愛すぎるってば)

僕は、急いで向き直り、玄関ドアを開ける。


僕らは、軽く準備運動をしてから、ゆっくりと走り始める。

近くの御陵の緑を横目に見ながら、御陵を囲む堀に沿った道を走る。

まだ、花が咲くには少し早い季節だ。

常緑の木々もあれば、昨秋に葉が落ちてから、幹と枝だけの木もある。


「ねえ、ちょっと、ダイ。ちょっと休憩。歩こう」

「え、もう?」

「いや、むりしたら走れるけど・・・ほら、せっかくやから、景色見ながら、

ウォーキングっていうのもええかなあ、て」

「しゃあないなぁ。じゃあ、走ったり、歩いたり、を取り混ぜていこか」

「うんうん」

「でも、速足な」

「うんうん」


少し歩くと、体がポカポカしてきた。ウォーキングも悪くない。

想子さんが言った。

「なあなあ、八幡宮、お参りしていこ」

「ん?ええけど。お賽銭とか、僕、お金持ってへんで」

「大丈夫。私が持ってる」

想子さんは、ドラえもんみたいに、ポケットから小さな財布を取り出す。


静かな境内には、人はまばらにしかいない。

冷えた空気が、頬に気持ちいい。

想子さんから、5円玉を貸してもらって、お賽銭を入れ、

二人並んでお参りする。


「おみくじ、ひこう」

再び、想子さんのポケットから、財布が登場する。

ここの八幡宮のおみくじは、凝っている。

小さな金色の、打ち出の小槌や招き猫やカエル、など何種類あるのか知らないけど

小さなお守りがついてくる。

おみくじの紙を開くと、僕は、小吉だった。

吉かどうかよりも、おみくじに書かれている言葉が、すごくいいのだ。

心に響く、味わい深いことばが書いてある。

素直にがんばろうと思えてくるような、気持ちが前向きになる言葉だ。

想子さんも、一生懸命、おみくじの文章を読んでいる。

「どうやった?」

「ん。私、小吉。・・・あら、ダイも?じゃあ、書かれてる言葉も一緒?」

お互いのおみくじを見比べる。

小吉、というのは一緒でも、書かれている言葉は違っている。

想子さんの方に書かれている言葉も、とても素敵な言葉だ。


「ここのおみくじが、一番好きやな」

「うん。そやな。書かれてる言葉が、めっちゃ響くよな」

「これ、時々見直して、励みにしよう」

「そやな」

僕らは、おみくじをきれいにたたみ直し、金色のお守りと一緒に

入っていた小袋に戻して、ポケットにいれる。


「さあ、走るで」

十分な休息をとった僕らは、再び走り出す。


しばらく走ったところで、ふと背後にいるはずの想子さんの気配が

ないことに気づいた。

ふりむくと、新しくできたベーカリーカフェの前で、想子さんが

手を振っている。

想子さんてば・・・。

急いで、彼女に駆け寄ると、

「なあなあ。ここで、朝ごはんにして行けへん?」

「え~。まだ途中やで。今、食べたら、走られへんやん」

「大丈夫。もう十分走ったよ。・・・初日にしては」

早くも、想子さんの目は、店内の陳列ケースに注がれている。

「美味しそう・・・」

いや、たしかに、美味しそうやねんけど。

でも、そもそも、僕ら何のために走ってたん?


「ダイエットは、運動とバランスのいい食生活でうまくいくねんて。

やから、バランスの良さそうなパン、選ぼね」

僕の心を読んだように、想子さんは言う。


はあ・・・。

僕は、ため息をつく。

あとで、もう一回一人で走りに行った方がよさそうかも。

ひとの気も知らないで、想子さんは、僕に指令を出す。

「なあ、できるだけいろんな種類試そな。私と同じの選んだらあかんで」

「へいへい」


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