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ひとの気も知らないで  作者: 原田楓香
28/61

28. プレゼント


街は、クリスマスムードで賑わっている。不思議だ。

寒い時季のはずなのに、クリスマスに賑わう街は、なぜか

温かく見える。イルミネーションの光の色のせいか。

道を行き交う人々の服装のせいか。

それとも、店のウインドーを飾る、緑と赤の色のせいか。


サンタさんは、今頃どこの空を飛んでいるのか。

僕は、待ち合わせの場所へ急ぐ。

さっきまで、クラスの連中とカラオケ店で、クリスマス会を

していた。


2学期が終わって、すぐに始まる塾の冬期講習を前にして、

せめて、今日だけは、とみんなで集まったのだ。

プレゼント交換をするということで、600円以内で、みんな

プレゼントを持ち寄った。

僕は、何がいいか全く浮かばず、想子さんが無難だと言った

入浴剤とパックのセットにした。

「これだと、男女問わず、使う可能性大」

と自信たっぷりに言うので、それを信じてみた。


みんなで輪になって、音楽が流れている間、隣へ隣へと

プレゼントを手渡して行き、最後に音楽が終わった瞬間に

手にしていたものが、自分へのプレゼントになる。

みんなで一斉に、自分のもらったものを開けて見せ合う。

僕の選んだプレゼントがあたったのは、前に僕が、告白を

あっさり断ってしまったせいで、少しぎくしゃくした関係に

なってしまった彼女だ。

見ていると、けっこう喜んでいるようで、内心ほっとする。

(どうかあったまって、ええ夢見てください)

僕は、心の中で、願う。

さて、僕の手の中にあるのは、というと、

手作りのブックカバーと栞だった。

夜空を思わせるような、深い藍色の布で、上の方には、

小さな星が、下の方には、小さなモミの木が刺繍されている。

その小さな星の輝きは、その小さなモミの木のためだけに

投げかけられているように見える。

妙に、心魅かれる構図だ。

そしてセットの栞は、素朴な雰囲気の、しっかりした質感の、

ベージュ色がかった紙に、くっきりとした紺色のインクで、言葉が

3行書かれている。手書きだ。

インクの色も文字も、すごくきれいだ。


『自分の感受性くらい

自分で守れ

ばかものよ』


胸がずきんとした。

誰かの詩なのだろうか。

僕にはわからなかったけど、

なんだか忘れられなくなりそうな言葉だ。


すごく素敵なプレゼントだと思った。

それに引き換え、僕は、少々適当過ぎたな、と

申し訳なくなる。

可愛い袋に入れて、リボンはつけたけど。


僕には、そのプレゼントを用意した人が、誰かわかった。

ブックカバーだけでは、わからなかっただろうけれど。

文字を見たら、わかってしまった。

彼女だ。

偶然にも、僕の入浴剤とパックは彼女に当たり、

彼女のブックカバーと栞は、僕に当たった。

ずっと、ぎこちないまま過ごした2学期だったけど、

そろそろ終わりにしたい。

少なくとも、僕から、変わってみよう。

少し離れたところから、こちらを見ている彼女に、

僕は、ブックカバーと栞を両手に持って、にっこり笑って見せた。

次の瞬間、彼女が、久しぶりに、とても柔らかな笑顔になった。

花が咲いたような、明るい笑顔だ。

僕は、ホッとして、ほほ笑み返す。


クリスマス会は、1次会でお開きになり、みんなそれぞれに、

帰っていく。

彼女も、女の子の友人たちと、引き上げて行く。

帰り際、軽く僕に手を振ってくれた。

3学期には、前のような友達に戻れそうな予感に、なんだか

僕の心も軽くなる。


明日の朝から、冬期講習が目いっぱい入っている友人たちも、

ちょっとぼやきながらも、みんな素直に帰っていく。



僕は、想子さんとの待ち合わせ場所に向かう。

いつもなら、家で、クリスマスケーキを食べて、チキンをかじりながら、

テレビを見るところだ。

でも、今年のクリスマスは、ちょっと違う。



僕は、待ち合わせ場所に向かう。

想子さんは、先に行って待っているはずだ。

僕は、彼女に、メールを送る。


『今、解散したから、そっちへ向かう。10分くらいで着くと思う』


『了解。待ってるよ』


なんだか、デートの待ち合わせみたいで、ドキドキする。


待ち合わせ場所の、小さな無国籍料理のレストランは、温かな色の

イルミネーションで、本日は、予約のみ、のプレートがかかっている。


店内に入ると、出窓のそばの2人用のテーブルに、想子さんがいた。

僕に気がつくと、嬉しそうに手を振る。

髪の毛をハーフアップにして、めったにつけないイヤリングもしている。

ふんわりした淡いクリームイエローのセーターがよく似合っている。

つややかで華やかな色の口紅がよく似合っている。

可愛い。かなり、可愛い。いや、めちゃくちゃ可愛い。やばい。

僕の胸はさらにドキドキする。


「お待たせ」

「案外早かったね。さあ、お腹空いたし。食べよう食べよう」

想子さんが、クリスマスディナーを予約してくれたのだ。

僕がテーブルに着くと、まもなく、飲み物が運ばれてくる。

ノンアルコールの白ワイン風の飲み物だ。

2人でグラスをそっと合わせて乾杯をする。


「ダイ、その濃紺のタートルネックのセーターよく似合ってるよ」

「そう?」

「いい色でしょう?選んだ人のセンスの良さが光るわ」

「・・・自分で言う?」

「へへ」

想子さんが笑う。


今日は、コース料理なので、おまかせで、次々皿が運ばれてくる。

一口サイズのいろいろな料理がのった前菜をはじめとして、どれも

お洒落で目にも楽しく、もちろん味もいい。


食事の合間に、今日の午後のクリスマス会の話題になる。

「例のプレゼント交換でさ、こんなのが、あたってん」

僕は、ブックカバーと栞を見せる。

「へえ。・・・すごくカッコイイね。このブックカバー。栞は、どんなの?」

「これ。この言葉がなんかすごく胸に刺さるっていうか、ずきんとくる」

想子さんは、手にした栞を一目見るなり、言った。

「茨木のり子さんの詩やね。これは、最後の3行だけやけど、全体は

もう少し長くて、すごく鋭くて、響く詩やで。家に帰ったら、どんな詩か

本を見せたげる」

「うん」

「素敵なプレゼントあたったね」

「うん」

僕の頭に、彼女の笑顔がふと浮かぶ。

あらためてホッとした気持ちになる。


「じゃあ、私からも、ダイにプレゼント」

「え?」

「今年は、これこれ」

「なになに?」

想子さんが、取り出したのは、小さな箱だった。

開けてみると、シャープペンシルが入っている。

「これね、力を入れても芯が折れにくくて、とっても握りやすいねん。

マークシートぬるときでも、きっと使いやすいと思って」

「おお。これ、うわさに聞いてたやつ。マジで使いやすいって、評判。

ありがとう。めっちゃ助かる」

「よかった」

想子さんの笑顔につられて、僕は、ポケットの中の小さな包みを

握りしめ、そして、思い切って取り出す。

「僕からは、これ」

それは、小さなペンダントだ。ペンダントトップは、小さなリングだ。

いつかは、指輪を贈りたい、その秘かな願いをこっそり込めている。

「つけたげる」

僕は、席を立って、彼女の後ろから、肩越しに彼女のほっそりした首に

そっとペンダントをつける。


想子さんに、こんなプレゼントをするのは初めてで、僕は、さっきから、

緊張している。彼女の反応がすごく気になる。

それなのに、想子さんは、黙ったままだ。

そして、うつむいて、じっとペンダントを見つめている。

緊張がピークに達して、僕は小声できく。

「どうしたん?・・・好みとちゃうかった?」

不安そうな僕に、想子さんが首を振る。


「・・・嬉しい。思いがけへんプレゼントやったから。・・・ありがとう」

自分の席に戻りかけた僕の腕をとって抱きしめ、想子さんが言った。

「ありがと。ダイ。・・・大好き!」


(ちょ、待って待って。・・・大好きって、

え?え?どうしよ。どんな顔したらええん?)

耳まで赤くなって焦る僕に、想子さんが言った。

「このデザイン、大好き!この小さいリングに、ちっちゃなルビーが

はめ込まれてるんやね。めっちゃ可愛い~」


あ、デザインね。はいはい。

(ほんまにもう・・・。ひとの気も知らないで)




(*本文中の詩の1節は、茨木のり子さんの 『自分の感受性くらい』より引用)


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