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ひとの気も知らないで  作者: 原田楓香
24/61

24. ライバルは


 目標が定まったおかげで、

やりたいこと、やらないといけないことが、

はっきり見えてきた。

僕の受験対策はやっとスタートだ。

高2の秋のスタートは遅い。

とりかかりが遅かった分、計画をしっかり立てる。


予備校へは行かないつもりだ。

友人たちの多くは、予備校の冬期講習に申込み、

週に3日塾に通ったり、家庭教師をつけてもらった、

という奴もいる。


某会の通信講座に申し込むのはどうか?と

一瞬思ったけど、

「確か、中学のときに、やってたよね、通信講座。

あのとき、どうやった?」

想子さんに言われて、僕の記憶によみがえったのは、

届いたあと、封筒から出すことさえしないで、机の横に、

積み上げたままの課題だ。


「そやな。僕ら、あれには、向いてなかったな」

「あら、私は、中学のとき、5回くらいは、ちゃんと

課題やって送ったで。ダイは何回?」

「2回。そんな、かわらんやん」

「でも、まあ、向いてへんことは確かやね」

「そやな」

「何で、塾とか行かへんつもりなん?」

「ん~、行かんと受かったら、なんかかっこいいと思わん?」

「たしかにね。でも、効率よく勉強するコツとか、対策とか、

教えてもらえるんちゃう?」

「そのへんは、学校を利用するわ。けっこう、本気出して

目指してる生徒には、個別指導や特別講座やってくれるねん」

「ありがたいね。私が行ってた高校は、ほったらかしで、

そんな面倒見てくれへんかったな」

「そうか。まあ、でも自由な校風でいいって言うてたやん」

「まあね。でも、ダイが必要やと思ったら、ちゃんと予備校も

申し込んだりするから、言わなあかんよ。イギリスからも、

頼むよって、言われてるし」

(もちろん、英国に言われているのではなく、

英国にいる両親が言っているという意味だ)

「へいへい」僕は答える。



最近、想子さんが、前ほど無茶を言わなくなった。

雑用は、黙って自分がやろうとする。

庭の手入れや掃除さえも、1人でやろうとする。


「僕もやるから。気分転換にもなるし」

「うん。まあ、でも、今日は、こっちでやっとくよ。

ダイは、勉強!」

なんか、想子さんらしくない。今までなら、

『これくらい、気分転換になるからやったら?』

って、言ってただろうに。

逆に気になって、僕は、庭の気配に耳をすます。

チョキチョキと、剪定ばさみの音がする。

軽快な音が響く。

機嫌は良さそうだ。

そう思った次の瞬間だ。


「わああ!」

大きな声がして、バターンと何かがひっくり返る音。

僕は、大慌てで、階段を駆け下り、庭へ飛び出す。


想子さんが、脚立ごと倒れている。その横に、

剪定ばさみが落ちている。

僕は、心臓が止まりそうなくらい焦って、必死で、

想子さんに駆け寄る。


「想子さん!大丈夫?」

「だいじょぶだいじょぶ」

意識はある。

「頭は?打ってない?」

「うってない」

「どこかぶつけた?」

「かた。ひじ。それと、足、くじいたかも」

「動かせる?」

「うごかせるけど、けっこう痛い」

痛そうだけど、骨折はしてなさそうだ。

「よし。病院行こう」

「ええ~、いいよ。湿布しといたら、なんとかなるよ」

「行って診てもらおう。その方が安心できるやろ」


ためらう想子さんを、抱え上げて、一旦、家に運び入れ、

僕は、医者に行く用意をする。

土曜診療の、診察時間に間に合いそうだ。


タクシーで病院に向かい、診察を受ける。

肩も肘も、強くぶつけた痛みはあるけど、骨は

無事だ。

足首も、脚立を踏み外した時に捻挫したようだけど、

こちらも骨は無事だった。

診察を終えて、薬局で、薬を受け取ると、やっと、

僕の心臓は、バクバクがおさまった。


再び、タクシーに乗って帰宅し、想子さんを支えて、

リビングのソファに連れていく。

想子さんは、ずっと、言葉少なに、神妙な顔をしている。

「ごめんな。ダイ」

「骨、無事でよかったね。今日は、お風呂はあかんで」

「うん。わかってる」

「無理に、全部、1人でやろうとせんでええで。

一緒にやったら、早く片付くし、僕かて気分転換になるし」

「うん。かえって迷惑かけたね。ごめんな」

心なしか、想子さんの目が潤んでいる。

「何言うてんねん。そんなん謝らんでええねん」

しょんぼりした想子さんを見ると、たまらなくなって、

僕は、彼女の頭を思わず抱え込む。

「あほやなぁ。無理せんでええねん。・・・痛かったやろ。

ごめんな。あんな高いところ、1人でさせて。

今度からは、絶対一緒にやろな」


僕の腕の中で、うなずいた想子さんは、なんだか、

いつもより小さな子どもみたいに頼りなげで、愛おしい。

おさまったはずの、僕の心臓が、再び、バクバク言い始める。

やばい。

そう思ったとき、想子さんと僕のお腹が、心臓より強く

自己主張した。

ぐぐ~っ。


「へへ。骨、無事ってわかったら、なんかお腹空いてきた」

想子さんが笑う。

「そやな。何が食べたい?」

「う~ん。ハンバーガーにする?」

「いいね。メニューのパンフ、どっかにあったっけ?」

「あ、キッチンのテーブルの上」

「今日の昼は、ハンバーガーにする気満々やったんやね」

「うん。昨夜、最終回の花村 礼、見返してたら、あまりにも、

美味しそうで、どうしても食べたくなってさ」

(録画したやつ、また見てたん?)

僕のライバルは、依然として、花村 礼のようだ。

想子さんてば・・・ひとの気も知らないで。



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