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ひとの気も知らないで  作者: 原田楓香
17/61

17. 甘やかしすぎ?


「見て見て!これ!」

研修で京都に出かけていた想子さんが、帰宅するなり、

僕に見せたのは、1冊の雑誌だ。


「うわ。花村 礼!」

「そう。いいでしょう」

想子さんが僕に見せた雑誌の、表紙でほほ笑んでいるのは、

僕ら(特に想子さん)が、ハマっているドラマの、

ピアニスト 花村 礼だ。

役のイメージが、あまりにぴったりなので、最近は、

ついつい役名で呼んでしまう。


雑誌の表紙にしては珍しく、目線をこちらに向けず、

ドラマのシーンを思い出させるような、ピアノに向かう姿だ。

唇の両端をそっとあげて、ほほ笑んでいる。


「このほほ笑み! 今は、こっち向いてなくても、

次の瞬間に、ふっと目をあげてこっち見てくれそうで。

あかん~目が吸い寄せられて離れへん・・・」

「ふ~ん」

「京都で運よく、これ買えてさ、もう、帰りの電車の中で、

ずっと、見ててん。記事も面白そうやで」

「ふ~ん」


「それとな。これ買うときに、ちょっとびっくりしたことあってん」

「うん?」

「いや、本屋さんで、この本を手にもって、買おうか買うまいか、って

迷ってる人がおってさ。どっちするんやろ、って、じーってみててん」

「想子さん、目でプレッシャーかけてたん?」

「ちゃうちゃう。その人ぜんぜん、気ぃつかんまま、ずっと迷ってるから、

『買うの買わへんの?』ってきいた」

「え、まじで?」

目でプレッシャーどころじゃなかった。想子さんてば。


「ちょ、直接きいたん?」

「うん。でないと、あかんかったら、次の店にすぐに買いに走らなあかんし」

「そんなに売れてるん?」

「うん。売り切れ続出っていうてた」

「売れ切れ、て言われると、余計買いたくなるからなあ」

「そや。それでな、買うの買わへんの?ってきいたら、その人、はじめて、

私に気ぃついて、すみません、っていうて、すぐに渡してくれはってん」

ええ~。なんて申し訳ない・・・。

僕は、想子さんの代わりに、その人に、ごめんなさいと言いたい。


「で、その人に何て言うたん?」

「思いっきり笑顔で、『え、いいんですか?よかった~

それ最後の1冊みたいやから、あかんかったら、他のお店回ろうと

思ってたんです~』って」

ああ。最後の1冊なのに・・・。気の毒に。

「いや、でも、念のために、『ほんとにいいんですか?私が買っても?』

って、きいたら、どうぞどうぞ、って言うてくれはったもん」

相手の人は、きっと、想子さんに圧倒されてしまったんだろう。

ほんとにごめんなさい。

僕は、見知らぬその人に、心の中で手を合わせる。


「それでさ、びっくりしたのは、本を譲ってくれたこととちゃうねん」

「何なん?」

「その人さ、そっくりやってん」

「うん?」

「ダイに」

「…正確に言うと、5,6年後ぐらいのダイかな?って感じ。

ちょっと落ち着いた雰囲気で」

「へえ・・・」

「細身でスタイルよくて、普通に、トレーナーとジーンズって服装やのに、

ちょっとお洒落な色とデザインの着てて。前髪は、眉毛にかかるくらいで、

襟足も長めかな。お肌が白くてなめらかで」

「ちょっとちょっと、どんだけ観察してんの」

「うん。雑誌待ってる間、ずっと見てた。でも横からやったから。

 声かけて、こっち向いたときに、顔見てびっくりした」

「で、僕にそっくりなその人に、むちゃ言うてんな?」

「いやあ。なんていうか、見慣れた顔やし、なんか、頼んだら、

許してくれそう?な気がしてさ・・・」


はあ。

僕はため息をつく。

僕は、想子さんを甘やかしすぎたのかも。

僕とそっくりだという、その人にまで、ご迷惑をかけてしまって。

僕は、決意する。


「なあ、想子さん。僕は、これから、ちょっと、きびしくするで。

かんたんに、言うこときいたりせんと、あかんときは、はっきりと、

ノーを言うようにする」

「そうか。それもいいかもしれへんね。・・・ところでさ、ダイ。

ちょっと髪伸ばせへん? 前髪、眉毛にかかるくらいにして。

で、あの、おしゃれなトレーナー、どこで売ってるのか。ちょっと

さがしてみよう。絶対、ダイも似合うで。

あ~しまったなあ、そのトレーナーどこで買うたんですか、って、

ついでにきいとけばよかった」


はあ。

僕は、もう一回ため息をつく。

頭の中には、不思議な空想が浮かぶ。

もしかしたら、想子さんが会ったその人は、

タイムトラベルで未来から来た僕自身で。

うっかり、想子さんに出くわしてしまったとか?

なんだか、ほんとにそんな気がしてきた。

ごめんね、未来の僕。


「それにしても、その人かなり、カッコよくて、

可愛いイケメンやったわ。もう一回会いたいわ~」

「花村 礼は、もうええの?」

「あ、そうやった!なあなあ、一緒に見よ、中身の記事、

かなり面白そうやで」

「うん。・・・でも、その前に晩ご飯は?京都で、なんか美味しいもん

買うてくるって言うてたから、楽しみにしててんで」

お腹は、ペコペコだ。


「あ!・・・忘れてた。これ買えた~、やった~と思ったら、

スカッと忘れてた」

ひとの気も知らないで、想子さんは、呑気に笑う。

僕は、ひとつため息をついて、言った。

「そんなこともあろうかと、野菜たっぷりの具だくさん焼きそば、

作る用意してあるよ」

「さすが、ダイ。」


あかん。やっぱり、甘やかしすぎ?


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