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ひとの気も知らないで  作者: 原田楓香
16/61

16.   1つだけ


 「なあ、ダイ。もし、願いごとを、3つ叶えてあげるって言われたら、

何を願う?」


また、始まった想子さんのアンケート(?)だ。

「そやな。3つもいらんな」

「え?なんで?」

「僕の願いはなんでも叶えてください、って言う」

「あ、それは、なしやって。ちゃんと、3つ、って言うたら、3つ!」

「ええ~。でもこの答え方教えてくれたんは、想子さんやで」

「・・・まあね。ダイ、よく覚えてるね」


まだ、幼かった僕が、『3つの願い』というお話を、想子さんに

読んでもらったときのことだ。

主人公のおじさんは、妖精か何かを助けたお礼に、

3つの願いを叶えてあげる、と言われるのだが、

彼は、お腹がすいてたので、ついうっかり、

『ソーセージが食べたい』と願ってしまって、

貴重な3つのうちの願いを1こ使ってしまう。

そしたら、そのおじさんの奥さんが、

『そんなつまらないことに1こ願い事を使うなんて!』と激怒し、

『そんなソーセージなんか、あんたの鼻にくっついてしまえ!』

と言い、たちまち、おじさんの鼻にはソーセージがくっつき、

何をしても取れなくなり、とうとう、最後の願いを、

鼻からソーセージを取ってもらうことに使う羽目になる、

という、ラッキーなんだか、マヌケなんだかわからないお話だ。


もしかしたら、自分にもそんなチャンスが、あるかもしれない。

いざというとき、しくじらないように、日頃の備えは、大事だ。

幼心にそう思った僕は、一生懸命考えた。

でも、どうしても、3つに絞ることができない。

何度、指折り数えても、5つより減らせない。。


そんな僕を見て、想子さんは言ったのだ。

「あら、そんなん、1つあれば十分やわ」

「え?なになに?」

僕は、自分の欲ばりを恥じた。

自分は、どうしたって、1つには絞られへん。

想子さんは、すごいな。

尊敬の念を込めて、見上げる僕に、彼女は言った。

「私の願いは、なんでも叶えて!って言うたらええねん」

う~ん。

そ、それは、ちょっとずるいような。

でも、その答えは、当時の僕には、目からウロコ並みの斬新さで、

記憶に刻まれた。

おかげで、僕は、願いを叶えてやると言われたら、いつだって、

スタンバイOKだ。


想子さんは、忙しい両親にかわって、毎晩、僕にいろんなお話や

絵本を読んでくれた。

斧を落とした木こりと湖の女神の話を読んでくれたときも、

ダイならどうする?と聞かれて、

「やっぱ、正直に言うわ。だって、自分の使ってるやつでないと、

なんか落ち着かへんもん」と答えると、

想子さんは、

「そら、私も、正直に言うで。でも、一応言うてみる。

『私の落としたんは、鉄のやけど、もし、もらえるんやったら、

金の斧も銀の斧も、ほしいです。あきませんか?』って。」

「あつかましすぎるんちゃう?」

「そんなん、言うてみなわからへん。気前がいい女神さまかもしれんし」

「そ、そうやろか・・・」


また、あるときは、

「桃太郎の、飛び出してきた後の桃は、どうなったんやろ?」

想子さんが言った。

桃太郎が出てきて、育てることにした、とは書いてあっても、

外側の、桃の部分がどうなったのかは、書いていない。

もしかしたら、僕らの読んだのとは、ちがうバージョンには、

ちゃんと書いてあるのかな?

「タネのところに、桃太郎はおったんちゃうん?そしたら、

外側に、多少は、桃の実の部分は、あったんちゃうん?」

「そやろな。書いてないけど、食べたんちゃう?」

「そやろか。桃太郎出てきて、びっくりしすぎて、食べんの忘れたか?

それか、桃太郎、桃の中に、ぴちぴちで入ってたんかな?」

「う~ん」


どんなお話を読んでも、ツッコミどころがありすぎて、

それを話し合っていると、僕らは、なかなか眠れない。


ぴったりくっつけて敷いた布団の上に寝転がった僕らは、

パジャマのまま、いろんな物語の世界を旅した。

敷き布団は、ときに、流れの激しい川を下る筏にもなったし、

押し入れは、魔法の国のドラゴンが住む洞窟にもなった。

枕は、冒険にもっていく、貴重な食料の入った箱にもなれば、

海賊の秘密の宝箱にもなった。


想子さんの頭からは、次から次へと、いろんな空想の世界が

湧き上がってきた。そして、その世界では、

僕は、お姫様の想子さんを守る、忠実な騎士だったり、

姫のそばに仕える、ちょっとマヌケな小僧だったり、

姫のお伴をする、ちょっとドジな妖精だったりした。

ふふふっ。 可愛かったな。想子さん。

思い出すと笑ってしまう。


「あ、何ひとりで笑ってんの?」

「うん?ないしょ~」

でも、あらためて、気がついた。

想子さんのお姫様率の高さにくらべ、

僕の素敵な騎士率の低さは何だ?


想子さん。

僕の空想の世界の中では、

僕は、姫に尽くす、立派な騎士なんやで。

わかってる?

そして、今の僕の願いは、ほんとは、

『なんでも叶えて』なんかじゃなく、

ほんとに、1つだけ。

誰にも、言えないし、言わないけど、

1つだけ。


ひとの気も知らないで、想子さんは、

「で、結局、3つ叶えてもらうとしたら、何て言うん?」

もう一度、きいてきた。

「言わへ~ん」

「けち」


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