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ひとの気も知らないで  作者: 原田楓香
12/61

12.  今日の


 生配信イベントは、無事に終了した。

そして、想子さんもイベントを無事見ることができた。

不測の事態に備え、僕もスタンバイを要請され、

リビングのソファに、並んで座った。

(いや、僕、課題あるねんてば)

と言っても無駄なのでもう言わない。

もし、途中で画面が固まったら?

音声が聞こえなくなったら?

各種、不安を抱えつつ、パソコンの前に座った彼女は、

無事イベントを最後まで見終えて、幸せそうだ。

(途中、何度か、画面が止まることはあったけど)


始まる1時間以上前に、せっかくお風呂にも入ったのに、

メイクし直して、少し可愛いめの服を着ているので、

「なんで?」と僕はきいた。

「だって、なにわくんたちが、ちゃんとステージ衣装で

出てくるのに、見てる私が、よれよれのネマキ姿で、

すっぴんじゃ申し訳ないもん」

「向こうからは見えへんよ」

「見えへんでもちゃんとするのが、心意気てもんや」

「なるほど」


瞬きする間も惜しんで、画面を見つめる想子さん。

よかったね。

そんなに大好きなもの、というか人がいて。

『大好きだから、がんばれる』と彼女は言う。

やりたくないことも、しんどいことも、

彼らの歌を頭の中で、思い浮かべると、

あと一押しの力が湧いてくるのだと。


『好き』は、力だ。

『大』がつくと、さらにその力は大きく強くなる。


僕の、力は大きくなりすぎて、

時々、心の器からあふれそうになる。

きっと、まだまだ大きくなる。

だから、僕は、日々、ひそかに心の修行を重ね、

器の強化とサイズアップを目指している。


「ああ、よかった。今日は、夢でなにわくんたちを

見れそう・・・」

想子さんは、うっとりとして、部屋に戻っていく。

「おしあわせに~」

やっと開放された僕は、自分の部屋に戻る。


キラキラな幸せ感が、一緒に見ていた僕にまで

残っている。


よし。

がんばろう。


そうだ。

ぐだぐだ考えずに、好きなもんは好き。

とりあえずは、それでいい。


この先の道に、何が在ろうと、

今日の僕の、この想いは

今日の僕だけのものだ。

昨日の僕にも、

明日の僕にも、

さわることのできない、

今日の僕だけのものだ。


そう思うと、

悩んだり迷ったり、

ぐだぐだになったり、

へこんだり、

そんなことすらも、

なんだかとても愛おしいものに、

思えてくる。


「ひらめいた!」

この前から、ずっと、書けなくて

悩んでいた課題が、ついに、なんとかなりそうだ。


『詩、もしくは、俳句、もしくは、短歌を作って提出。

テーマは、なんでもいい。青春の想いをぶつけた

きゅんきゅんくる作品を待っている』

なんていう、めんどくさい課題に、僕は、このところ

頭を悩ませていた。

『テーマは何でもいい、と言いつつ、きゅんきゅん、なんて

言うから、ハードルが上がるねん』と、みんなでボヤいた。


月を見ながら、李白の漢詩を参考に何か作ってみようと

したものの、結局、想子さんとミルクで酒盛り?に転じて

しまい、あの日も、とうとう出来上がらなかった。

友人たちは、適当に書いて提出したと言うやつもいれば、

天から降りてくるのをぎりぎりまで待つ!と言うやつも

いたりで、様々だ。

何にせよ、締切は明日。

やれやれ。


コンコン。

ドアがノックされる。

「なに?」

机の前に座ったまま、僕は答える。


ドアを開けて入ってきた想子さんが、言う。

「なあなあ、なんかお腹すけへん?」

「え?今から食べるん?」

「だって、晩ご飯早かってんもん」


確かにな。

4時半は、早すぎや。


「やから言うたやん」

「うん」

「今から食べたら、やばいんちゃう?」

「うん。やから、ちょっとだけ」

「今、がまんしたら、明日の朝、体重計乗ったとき、

嬉しい数字が出るんちゃう?」

「・・・」

想子さんの表情が揺れる。

でも、そのとき、ぐぐ~と可愛らしい音が、

想子さんと僕の、2人のお腹から、聞こえてきた。


「もう。・・・僕も、ガマンしてたのに。

刺激せんといてや~」


しゃあないなあ。

きゅんきゅん、の課題をひとまずおいて、

僕は立ち上がり、2人で、キッチンに向かう。

「何にする?」

「ちっこいおにぎり、2個。いえ、3個くらい」

「それやったら、普通のおにぎり1個でええんちゃうん?」

「いや、具はいろいろほしい」

「ぜーたく」

「かつお。こんぶ。うめ」

はいはい。

「おにぎり、3個、2人前オーダー入りました~」

僕は、笑いながら、声をあげる。

作るのは僕やけど。


きゅんきゅんも、空腹には勝てない。

ひとの気も知らないで、想子さんはいそいそと、

あったかいお茶をいれている。

そして、僕の手元を見て言う。

「あ、もうちょっとだけ、大きくてもええで」




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