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ひとの気も知らないで  作者: 原田楓香
11/61

11. どっちが


 想子さんは、朝からソワソワしている。


「今日は、晩ご飯、早めにするで」

「うん」

「お風呂も早めに入って、用事は全部早く終わらせる」

「うん」

「で、万が一、9時の直前に、電話がかかってくるような

ことがあれば、ダイ、頼むね」

「うん」


よし。

小さくつぶやいた想子さんは、気合が入っている。

「もし、想子さんの友達からとかの電話やったらどうする?」

一応、きいてみる。

「大丈夫、かかってきそうなあたりは、予めメールしてある。

それに、あの子らも、たぶん、その時間は、PCかスマホの前に

くぎ付けのはず」


今日は、想子さんの大好きなアイドルグループのアルバム購入者

対象の生配信イベントがあるのだ。

1ヶ月も前から、この日を楽しみにしていた彼女は、今朝、

試しに、そのサイトにログインしようとして、パスワードを

忘れていることに気づいて、慌てていた。

思いつく限りの、文字やら数字やらを打ち込んでは拒まれ、

とうとう、彼女は、パスワードを忘れた方は、のところを

クリックして、登録しなおし、事なきを得た。


想子さんの今日の一日は、完全にそのイベントに照準が合わされ、

なんだか、それに付き合わされる僕の一日も、長いんだか

短いんだかわからないような、不思議なペースで、進んでいる。



想子さんは、関西弁が好きだ。

そのグループが好きな理由の一つは、それだ。

彼らは、さらにカッコイイ可愛い面白い、全てを兼ね備えているところが素敵なのだと彼女は力説する。


そして、言う。

「関西弁は、お笑いだけとちゃう。

めっちゃロマンチックな雰囲気かて出せるし。

たとえばさ、なんか困って悩んだり落ち込んだりしてるときに、

『あほやなぁ。・・・大丈夫やで。おれがついてる』とかって、

優しく頭をなでながら言われてみ、きゅ~んってくるやん」

想子さんは言う。

「ふ~ん。・・・『バカだなあ』じゃ、だめなの?」

僕は、標準語で言ってみる。

「うん。なんか、響き方がちがうねん。やっぱ、

バカっていうより、あほ、の方がええな。

それも、漢字やカタカナじゃなしに、ひらがなの『あほ』。

漢字やカタカナやと、なんかバカにされた気がする」


う~ん。

あほ、とバカが交錯している。

聞く人によったら、混乱するだろう。


「ダイは、どっちがええ?」

「う~ん。そやな、僕も、やっぱ、ひらがなの『あほ』の方かな」

僕も少し考えて答える。

「でも、どっちも、あんまり言われんほうがええな」と付け足す。

「まあ、そやね」

想子さんもあっさり言う。


「じゃあさ、これ、どう思う?」

「ん?」


「例えば、付き合ってる人に、

『君は、俺にとって、大事な存在や』

って言われるの」

今日の想子さんは、例えば、が多い、気がする。


ほんまに、『例えば』なんだろうか。

僕は、少し、疑惑を抱きつつ答える。


「う~ん。そやなあ。大事って言ってるから、

その部分だけ聞くと、なんか、一瞬いいように

聞こえる。

けど、なんかさ、そのあと、

『でも、…』って、続きそうな気がするな」

「やっぱ、そう思う?」

「うん」

僕は、続ける。

「ほんまに好きやったら、大事やとかどうとか

ぐだぐだ言わんと、大好きやで!で、ええやん。

って、ちょっと思ったりする」

「そうか。私もそう思うわ」

想子さんは、同意する。


「じゃあさ、大好き、と、愛してる、やったら、

どっちが響く?」

「ええ~、もうめんどくさいって・・・」


想子さんは、よほど、気持ちが落ち着かないらしい。

次から次へと、質問を繰り出す。

僕は、心の中で願う。

(お願い。早く、夜の9時になって)


ひとの気も知らないで、想子さんは、ウキウキを

隠せない。

そして、僕に様々な質問を投げかける。


(やめて~。僕、今、やらなあかん課題があるねん、て)


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