排水口に虫を捨てる少女
初小説です
少女は、排水口に虫を捨てる癖があった。
ハエや、蚊や、長い足の生えたよくわからない虫や。
捕まえた虫は、殺して、全てキッチンの排水口の中に捨てる。
足の一本ももげないように、丁寧に、丁寧に。
一か月も経つと、排水口の中は集めた虫でいっぱいになる。
それを少女はまんぞくげに見つめる。まるでいとおしいペットを愛でている時のように。
今日も少女は排水口に虫を捨てにいく。
捕まえたのは、触角の長い、羽の生えた中くらいの虫だった。
キッチンからはひどいにおいがする。
それがこの虫たちのせいなのか、ゴミ箱からあふれた、カップラーメンのせいなのかは分からない。
玄関から、ハイヒールが歩く音が聞こえる。
「■■■。居るの?■■■?」
少女を呼ぶ声が聞こえる。少しかすれた、媚び慣れたような声だ。
「ハァ、居るなら返事くらいしたらどうなの。これ、カバンの中入ってるやつ、全部捨てといて。今日は服取りに来ただけだから。」
化粧に塗られた顔。鼻に刺さる、香水の匂い。
ハイヒールが脱ぎ捨てられる。
「おかあ、さん。もう・・・ごはん、ない・・」
「ご飯?少しくらい食べなくても大丈夫でしょう。子どもは胃が小さいんだから。」
「・・・」
「くっさ。何この匂い?掃除くらいしなさいよ。汚い。ああ、あった!これこれ!この服!
これコウスケくんの好みのなのよね!露出も多目だしっ!」
「痛っ・・あ・・・」
「そんなとこにいないでよ、邪魔。じゃあ出るから。部屋、掃除しといてよ。」
ハイヒールの音が小さくなっていく。
少女の手の中の虫は、足がもげ、胴が少し潰れていた。
「おなか、空いたなあ・・・・」
パキッ
「この虫・・・あんまり、おいしくない・・・」
少女は、ひどいにおいのするキッチンへと向かった。
それはまるで、晩御飯を待ちきれないこどものような顔だった。
少女は排水口に虫を捨てる癖があった 終
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