微妙な事故物件
これは私が取材したあるプロ野球の結構有名な選手の奥様から聞いた話です。雑談の中で、なんとなく出てきた話なので、特に私としてもメモすることもなく、ボツ以前の話になっているわけですが、なんとなく記憶に残っている話です。メモをしていたわけではないので、私の記憶違いも少々ふくまれているかもしれません。記事にしてボツにする以前のちょっと不思議な話です。その奥様の学生時代の友人の話とのことでした。友人りのさん、はまたその友人えいこさんと一緒にどうきょをはじめたそうです。ルームシェアというわけですが、ふたりとも親の反対を押し切って、東京で起業し、ひとはたあげてやると、もえていたわけです。家出同然で出てきたふたりですから、事業以前に住むところがなかなか見つからず、最初はネットカフェを転々としながら部屋を探していました。ようやくとあるマンションが見つかりました。家賃が格安のわりには設備もそろっていて快適なのです。こう来ると、なんだか……、あっ!!と思いますね。なにかやばいものが、いるんじゃないか!?みたいな。でもりのさんもえいこさんも、少しはそんな気がしたらしいのですが、とにかくもう切羽詰まっていましたから、これはもう導かれるように入居してしまったのです。事業もはじめることができて、ようやく安定し始めたころのことです。おちついてきたふたりはもっといい部屋にかわろうか、という話をしていました。すると壁をどんどんと叩くおとがする。そんなに大きな声で、話したわけではないのに。それまでも同じようなトーンで話していたのに、なんでまた急に?隣の部屋は穏やかな感じのおばあさんが住んでおり、時々たずねてくる息子夫婦も上品な感じのひとたちでしたからりのさんもえいこさんも不思議な気持ちになりました。おばあさんは息子たちが一緒に住もうといってもきかず、一人で暮らしていたのですが、最近は病気がちで、入退院をくりかえしていたから、そこまで壁を強く叩く元気もないはずなのです。それからは何もはなしていなくても、しずかにしているのに、夜になると、どんどんと壁を叩くおとや、小さな子どもが走り回るようなおとがきこえてくるようになったのです。隣の人がかわったのかもしれない。一度挨拶にいったほうがいいのではないか?と思ったふたりはある日、心ばかりのお菓子の詰め合わせセットを持って挨拶にいったそうです。しかし部屋には誰もいませんでした。おばあさんはいつの間にか引っ越してしまっていたようなのです。それ以上のことはわからないので、ふたりは顔をみあわせるしかありませんでした。お菓子は仕方がないのでふたりで食べました。そしてまた数ヶ月がたち、新しいマンションやオフィスも見つかり、2人はルームシェアを解消して、それぞれ自分の部屋も見つけることができました。ちょうどその頃、おばあさんが帰ってきたのです。引っ越ししたわけではなくて、病院に入院していたとのことで、すっかり元気になったとのことでした。りのさんとえいこさんが心配していました、というと、おばあさんは、いやいやこれは申し訳ないと、2人にお菓子セットをプレゼントしてくれたそうで、そのお菓子が2人が持っていこうとしたお菓子セットと全く同じものだったそうです。りのさんとえいこさんが住んでいた部屋では、自殺などはなかった。きっと、おばあさんが住んでいた部屋で昔、なにかがあったのではないか?そしておばあさんがいないときに、不思議な現象が起こるので、この2人が住んでいた部屋が事故物件扱いになっていたのではないか?おばあさんが出ていかないのはやはり関係があるのではないか?おばあさんがその「何か」に引き止められているのか、それとも、おばあさんが「何か」を引き止めて、つまりは封印しているのではないか?と、ふたりではなしあいましたが、それ以上は、どうにもなりません。そのご、りのさんとえいこさんの事業は成功し、ステキな旦那様にもめぐりあい、子どもたちに囲まれて、いまも幸せに暮らしているそうです。