出会い②(ルフナ視点)
事件に関わったのだから、事情聴取の必要性は理解できる。
だけど俺はさっき、自分の責任感を優先して店の前に何人ものお客さんを待たせたまま飛び出して来てしまった。
「すみません。今、母の店を任されていて、すぐに戻らなくてはいけないんです」
「そうだったのか。では私も一緒に行こう。お母上に時間をもらえるように頼んでくれないか」
「母は出店にはいないんです。今休憩に行っていて。母が戻るまでお待たせしてしまいますが、構いませんか?」
「ああ、構わないよ」
意外とあっさり許可をもらえて拍子抜けした。
急いで出店に戻ってみれば、さっきのお客さんがまだ待っていてくれて、慌てて対応する。
お客さん達は俺が女装男を取り押さえるところを見ていたらしく、皆怒るどころか称賛してくれた。
そこへタイミングよく母様が店に戻って来た。
母様は俺が来て欲しい時が予測できるんじゃないかと思うくらい、いつもタイミングがいい。
「ルフナ、どうしたの?何かあったの?」
母様は俺を見るなり、抱えてきた荷物をそっちのけにして走り寄って来た。
服が土で汚れているのに気づいて、心配顔をしている。
「大丈夫だよ、怪我はしてないから」
「…そうみたいね。よかった。また人助けをしたの?」
「うん、まあ…そんなところ」
「お兄さん、騎士団が追いかけていた犯人を追いかけていって、捕まえたんですよ!」
お客さんの一人がニコニコしながら商品を受け取る。
「相手は刃物を持ってたのに、勇敢だったわあ」
「まあ…そうだったんですか」
「自慢の弟さんね。羨ましいわ~」
村人でない彼女は、勘違いをしたままお礼を言って去っていった。
俺と母様を姉弟だと言う大人は、この村にはいない。
「弟だって。よかったね」
「…これも豊穣祭の恒例行事ね」
「仕方ないよ。母様はどうしたって年上のお姉さんにしか見えないんだから」
母様は年齢よりもずっと若く見えるから、俺より後に生まれた子ども達や、村以外から来た人達は大抵姉だと勘違いする。
それを母様も自覚していて、嬉しく思う反面、いつまでも可愛い年齢だと思われてしまう葛藤があるようだ。
二人で顔を合わせて苦笑いしていると、会話が聞こえるくらいの距離にいた騎士が目を丸くしていた。
彼も母様のことを姉だと思っていたらしい。
その後すぐに母さんも店に戻って来て、二人に事情を説明した後、俺は待っていてくれた騎士と一緒に騎士団の駐屯所へ向かった。