二人の妃(ディブラン視点)
「賢王と謳われたお方が、いつまで手を拱いておいでなのです。早急に王女殿下の退学をお命じ下さい!」
貴族学校の校長が珍しく訪ねてきたと思えば、無礼にも部屋に通すなり私に進言してきた。
「来春にはセヴェリウス殿下もご入学されます。今のままではとても殿下を受け入れられません。これ以上、王女殿下を野放しにはしておけないのです…!」
「――だから?」
「はっ…?」
「あれを教育したのはグリンフィールズ公だ。文句を言うなら公に言ってくれ。私の関するところではない」
「そ、そうは言われましても、王族に関わる問題ですし…」
「クリスティエラ妃の娘だ。王女の進退は母親の彼女に判断してもらえ。私には報告だけすればいい」
「ですが…っ!」
私は顔を上げて、尚言い募ろうとする男の顔を睨んだ。
「話は終わりだ。王女の件で私が動くことは決してない」
「……」
こうもハッキリ立場を伝えたというのに、物分かりの悪い男だ。
納得のいかない様子ですごすごと帰っていく。
どうせ母親の妃に直訴しても無駄だったから私のところへ来たのだろう。
ティアが失踪した後、王妃が空席のままであるのは問題だと臣下が騒ぎ、第二妃のクリスティエラが王妃に繰り上がった。
早く子どもを作れと煩いから、言われた通りに妊娠させた。
生まれてきたのが女児だとわかると、今度は男児が生まれるまで励めと言ってきた。
愛するティアに毒を盛り、故意に馬車の事故を起こさせて彼女を殺した女と顔を合わせるだけでも不愉快なのに、再び寝所を共にするなど吐き気がする。
無視を決め込んでいる内に、クリスティエラとの間にこれ以上子は望めないと判断した臣下が今度は他国から成人したばかりの王女・エリスを連れてきた。
国交ためにと勝手に取り決められた縁談だったが、追い返すわけにもいかず妃に迎えた。
彼女に男児が生まれた時、私は「やっと終わった」と思った。
これでもう心を殺すことも、ティアを裏切ることもない。
子どものことはそれぞれの母親に保護者の役割を任せ、私は政務に専念した。
クリスティエラは未だに私との夫婦関係を望んでいるようだが、エリスは自由な生活が気に入っているようで何かを要求してくることはない。
夫婦というより友のような関係で、時折息子のセヴェリウスと三人で午後のティータイムを過ごしている。
親子揃って権威には興味がないようで、話題に上ることもセヴェリウスが似非教師をやり込めた話やお忍びで王都を散策した話(それは内緒にしておけ)など、政略とは無縁なものばかりで息抜きにはちょうどよかった。
私がエリスの部屋で茶を飲むと、その日の夕方には必ずといって雨が降る。
僅かでも天空の神と大地の神の加護を授かったクリスティエラの癇癪だ。
レティーシアの素行は耳にしているが、我儘で感情的なところは母親に似たのだろう。




