指輪のお守り(ルフナ視点)
授業は座学と実技訓練が交互に繰り返される。
実技で体を動かした後の座学の時間は、慣れない俺には休憩時間のような状態だった。
眠気をこらえるのに必死で、授業の内容が全然頭に入ってこない。
最初はみんなそんなものだよとセインは笑っていたけど、俺は他の生徒とは一年以上遅れている。
こんなことで弱音は吐きたくないし、一日も早く皆に追いつきたい。
昨日は帰ったら一気に眠気がきて、夕飯も食べずに寝てしまった。
せっかく用意してくれていたのに。
朝起きてごめんと謝ったら、母様は怒るどころか落ち込んでいるようだった。
「気が付かなくてごめんなさい。学校とはいっても訓練があるのですものね…うっかりしていたわ」
母様はキッチンから大きめのハンカチの包みと水筒を持ってきてテーブルに置いた。
「今日からこれを持っていってね。水筒には疲労回復のお茶を入れています。こっちはレモンとアポンのジャムを挟んだクラッカーよ。おやつに食べてね。元気が出るから」
「ありがとう…」
俺が眠っている間に作ってくれていたんだ。
母様も店の準備で忙しいのに…嬉しい。
「それから、これも。お守りよ」
そう言って、母様が俺の首に何かをかけてくれる。
よく見てみると、母様が時々作っている刺繍糸で編んだ組紐だ。
その先には白金の指輪がぶら下がっている。
表面には砂のように小さくて透明な石の粒が無数に散りばめられていた。
とても高価そうな指輪だけど、どうしたんだろう、これ。
「ずっと昔に知り合いからいただいたものなのだけれど、つける機会がなくて仕舞っていたの。光の加減で色が変わるのよ。綺麗でしょう?」
こんな指輪を贈ってくる知り合いって…。
父様のことか?
でもそれなら、あなたの父親から貰ったものだって言うはずだよな。
母様はあまり昔話をしたがらないから、時々謎だ。
「神は人々の信仰心と、自身を象徴とする色があるところに好んで集まるの。この組紐と指輪を身につけていれば、神のご加護があなたを守ってくれるわ」
にこにこと嬉しそうに話しているけれど、母様はこうして時々、神殿にいる司教みたいなことを言う。
神殿にも行ったことはないし、司教にも会ったことはないけど。
何にしても、母様の善意はありがたく受け取っておこう。
俺をよく思っていない貴族の坊っちゃん方には見つからないように気を付けよう。