嵐の前の歓談①(ルフナ視点)
母様達と一旦離れてコストルさんに報告を終えた後、俺はエリス妃殿下の居住区へ向かうために病欠した夜勤警備員の代役を請け負った。
もちろんこれは俺が母様を警護するためにでっち上げた口実。
エリス妃殿下とセヴェリウス王子殿下の警護を担当している第五騎士団の団長がコストルさんの義兄で(ややこしい)、彼に事情を話して口裏を合わせてもらった。
あらかじめブライトマン様がコストルさん経由で指示をくれた通り、ある部屋の扉をノックする。
「失礼します。カプラス第五騎士団長の命により本日急遽テス団員に代わって夜間警備を担当することになりましたので、妃殿下にご挨拶を申し上げたく参りました」
すると間もなく扉が開いて、ブライトマン様が顔を出した。
「わざわざご苦労。入りなさい」
「ありがとうございます」
何も知らない他の騎士達にわざと聞こえるように、大きめの声でやり取りする。
警備の中にクリスティエラ王妃の手先が紛れ込んでいた場合、不審な人物が第二妃殿下の部屋に出入りしていると怪しまれないようにするためだ。
後ろ手で扉を閉めた途端、セヴェリウス殿下が嬉しそうに駆け寄ってきた。
「ルフナさん!待っていました。どうぞ座ってください!」
小声でにこにこと笑いかけてくる殿下に戸惑いながらも、彼に腕を引かれるままエリス妃殿下の座るテーブルの傍までやってくる。
セリウスは元々俺に敬語を使ってくれていたけど、身分を知った今はそうされるとなんだか落ち着かない。
「お勤めご苦労さま。軽食を用意したから遠慮せず食べてちょうだい。お腹がすいているでしょう?」
「恐れ入ります。ですが勤務中ですのでお気持ちだけ受け取ります。挨拶に来ただけですし」
「それは建前でしょ?もしかして本当にテスの代わりに仕事をする気なの?」
「そのつもりです。一介の騎士が妃殿下の私室に長居する理由がありませんから。それに私のような者が妃殿下と同席することはできません」
「…急にどうしちゃったの?今まで何度も一緒に食事をしたじゃない」
「それは貴方様がエリス第二妃殿下と存じ上げなかったからです。今までの非礼をお詫びします」
「非礼ねえ…ふーん…」
「?」
妃殿下は不機嫌そうに目を細めた。
俺は当たり前のことを言ったつもりだったんだけど…何か間違ってしまったんだろうか?
弁解しようにも不機嫌の理由がわからないので黙っていると、妃殿下はあからさまな作り笑いを浮かべて椅子から立ち上がった。
その笑顔に不穏な気配を感じた直後、彼女は
「貴殿がそのつもりなら私も倣わなくてはいけませんね」
と言ってドレスの裾をつまみ――あり得ないことに平民の俺に向かって、陛下にするようなお辞儀をした。