騎士団への誘い(ルフナ視点)
高位の貴族からの申し出を即答で断ったことを叱責されるかと思いきや、グレイル様は好奇心に満ちた目で俺を見てきた。
「欲がないのか、我慢をしているのか…。いずれにしても、私に遠慮はいらないよ。その年頃なら欲しいものは山ほどあるだろう」
「いいえ、遠慮はしておりません。私がしたことは褒美をもらえるような殊勝なものではないからです」
「…どうしてそう思う?」
「あれは私の職務の一環です。村の警備が私の仕事ですから」
「村の警備隊は午後から非番にしていたはずだ。勤務中ではなかったのだから、仕事とは言えないのではないか?」
「たとえそうでも、私は警備隊の一員で、村を守る義務があります。非番かどうかは私にはあまり関係のないことです」
「そうか…望ましい騎士道精神だな。では私から一つ提案がある。我が軍に入隊しないか?」
「えっ…?」
冗談かと思うくらい軽い口調だったのに、彼の目は真剣だった。
「突然ですまない。だが私は、君の持つ可能性がこの小さな村の中だけで終わってしまうのが勿体なく感じたんだ」
「…そのように評価していただけるとは、恐縮です」
「不思議だな、君と話すとなぜか弟と話をしているような気分になる。初等教育は受けているそうだが、言葉選び一つにしても、学校では身につかない教養もある」
「買い被りすぎではありませんか。私はいち平民に過ぎません」
「いいや、私はそうは思わない。君にはのびしろがある。16歳なら、まだ王都の騎士学校に編入できる年齢だ。是非推薦したい。前向きに考えてみてくれないか」
困惑する俺に、グレイル副団長もコストルさんもニコニコと笑いかけてくる。
とりあえず家族に相談すると言って、その場を辞した。
その後、二人はわざわざ駐屯所の外まで俺を見送ってくれた。
まだ10代の若者にすぎない、平民の俺を…。
家に帰って母様に話すと、予想通りとても驚いた顔をしていた。
何か思うところがあったのか、すごいわねと喜びながらも不安そうに瞳を揺らしている。
母様が嫌なら、俺は王都には行かない。
馬車の事故で死んだ父親の代わりに母様を守ると、幼い頃に決めたからだ。
「ルフナ。母様はあなたを応援するわ。あなたが挑戦してみたいと思うのなら、折角の機会ですもの、推薦を受けてみてはどうかしら。騎士団の…それも役職のある方から直々にお話をもらえるなんて、こんな幸運はきっと一生に一度きりよ」
反対されるかと思ったけど、母様は背中を押してくれた。
不安で仕方ないと目が語っているのに、俺がしたいことを応援する、と。
俺は―――。