プロローグ
あの日のことを、今でも夢に見る。
もう何年も経っているのに、まるで昨日のことのように、鮮明に。
あの人の不愉快そうに歪んだ顔と軽蔑を含んだ眼差し。
突き放すように吐き出された溜息。
私を責めるような、低い声。
どれもあの日までは見たことのない姿で、ぶつけられたことのない感情だった。
笑顔を向ければ穏やかに微笑み返してくれた。
慈しみのこもった瞳でいつも私を見てくれた。
口癖のように甘く痺れる声で愛していると囁いてくれた。
でもそれは、私を懐柔するために付けた仮面の一つにすぎなかった。
そのことを夢によって繰り返し体感して、その度にひどく心を痛めて、そして何度も裏切られる。
呪いにかかったように、悪夢のような現実が上塗りされていく。
目覚める直前に思うことは、ここ十数年ずっと同じ。
(なんで言いなりになってるの、私!そこで言い返すのよ!ええ。あなたがどういう人なのか、よーくわかりましたってね!!)
夢が終わる気配を感じて、目を開ける。
ベッドに入る時は暗闇だった室内が、窓から差し込む光によって全てを暴かれている。
眩しいと感じたわけでもないのに、明るくなると自然と目が覚めるのは本当に不思議だ。
起き上がる前に、寝転びながらぐっと伸びをする。
(よし…今日も頑張りましょうか)
陽の光が眩しい。
今日も暑くなりそうだ。