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そのカスミソウは、ピンク色  作者: 木原 美狼
変化
9/19

松永奏多 2


前までとは違う当たり前にも慣れてきた。友達に戻りたいという気持ちはあっても、中々気持ちは追いつかなかった。でも、時間が解決してくれる、という考えは間違っていなくて、以前より雅に対する恋愛的な感情は小さくなり、友情という感情が大きくなっていた。こうやって、立ち直れたのもいつも隣で俺を支えてくれていた想がいたからだ。本当に感謝しかない。大切な友達だと改めて思った。


そんな中、自分は何で別れを告げられたのか理由が気になった。そもそも、理由を聞かずに別れを受け入れていた自分に少し驚いた。あの時は混乱していたから仕方ないのかもしれない。部活終わりに会う約束をして、久しぶりに雅と話すことになった。別れてからちゃんと話すのは初めてで、妙に緊張している。


「奏多、お待たせ。」

「久しぶり、歩きながら話すでも大丈夫。」


どこかよそよそしい聞き方になってしまう。


「うん、そうしよう。話って何?」


雅は全く違和感なく、友達だった頃のように接してくる。そんな雅を見て、少し気が抜けた。変に緊張せずに、普通に聞こう。


「今更なんだけど、なんで別れようと思ったのか気になって。その、友達に戻れるってことは、嫌われたわけではないんだよな。」


そう聞くと、雅はわざとらしく大きく頷いた。


「理由も言わずに別れてごめんね。気になったよね。」

「まあ、気になるかな。教えてもらえる?」

「うん、もちろん。」


理由を話してもらえることにひとまず安心した。どんな理由なのかと少しだけ緊張しながら、言葉を待つ。


「他に好きな人ができたの。」

「え、誰。」


考えるより先に、驚きと一緒に言葉にしていた。まさか、他に好きな人ができたとは考えてもいなかった。少しだけ複雑な気持ちになりまだ完全に吹っ切れたわけではないことがわかった。


「驚かないでね。私が好きなのはかすみなの。」


その言葉を聞いて驚かずにいられるわけがない。他に好きな人ができたというだけで驚いたのに、相手がかすみだというのはもっと驚いた。


「それ、本当に?だって女の子同士だろ。」

「本当だよ。私も初めての感情だったから、すごく考えた。その結果、私は恋愛的にかすみが好きだって気づいたの。性別なんて関係なくて、私はかすみだから好きになったの。」

「ごめん。俺にはわからない。ちょっと考える時間がほしい。」


そう言って、その場を去った。今、何も考えなしに言葉を発したら雅を傷つける、そう思ったから。一旦、自分の中で考えないと、理解ができなかった。今更俺が何か言ったとしても雅の気持ちは変わらない。俺が、雅の気持ちを受け入れられても受け入れられなくても、関係のないことだ。わかってはいるが、友達として、元彼としてその事実を受け入れるための時間はもらってもいいだろう。あの時、雅はどんな顔をしていただろうか。どんな気持ちで教えてくれたのだろうか。考えれば考えるほどわからなくなってしまった。



結局一人で考えることに限界を感じて、想に話してみることにした。雅がかすみを好きということは、簡単に話してはいけない気がして同性の恋愛についてどう思うかだけを聞くことにした。


「急に聞くことじゃないかもしれないんだけど、想って、同性同士の恋愛についてどう思う?」

「えっと…」


想は明らかに動揺して言葉を詰まらせた。普段、感情が表に出にくい想には珍しいくらい明らかだった。


「ちょっと気になって。俺は、同性同士っておかしいと思うんだ。自分が経験したことないからなのかもしれないけど、受け入れられそうにないんだ。」


その言葉を聞いた想は、またもひどく動揺しているように見えた。


「想?大丈夫?」

「うん、ごめん。この話はまた今度でもいいかな。…本当にごめん。」


と言って教室へと戻ってしまった。あんなに動揺して、話を断られたのは初めてだったので驚いた。もうこの話は想にはしないようにしようと決めた。結局解決はできず、考えることだけが増えてしまった。それから何日か考えたがやはり、自分の考えが変わることはなかった。あれ以来、想の様子もおかしいし、自分の周りでは問題ばかりが起きていた。想の様子も気になるが、今は雅のことについて最優先で考えた。



あまり時間をおいてもよくないと思い、また雅と会う約束をした。


「今日は、ここで少し話してもいい?」


いつもとは違い、放課後にはほとんど人のいない教室で話すことにした。


「うん、この前のことについてだよね。」

「俺、ちゃんと考えたよ。でもやっぱり同性同士の恋愛を受け入れることはできない。きっと大変なことも多いし、考え直した方がいいんじゃないかな。」

「考えてくれてありがとう。心配してくれてありがとう。でもね、好きになった気持ちを簡単に変えることはできないの。」


それはよくわかる。好きになったら、その気持ちは何があろうとなかなか変わるものではない。


「それでも、俺は友達として雅が心配なんだ。」


雅はその言葉に少し困ったような顔をする。困らせていることもわかっている。それでも、考え直してほしいと思ってしまう。


「奏多が心配する気持ちも少しはわかるよ。それでも、私はかすみが好きなの。だから、認めてほしいとは言わないけど、見守っていてくれたら嬉しい。奏多は大切な友達だから。」


そう言って笑った。雅の気持ちは、完全にかすみに向いているんだ。今更、自分を意識してほしいとは思わない。俺は、同性同士の恋愛を受け入れることはでいない。それでも今は、大切な友達の中に芽生えた気持ちを見守るための努力はしようと決めた。


「わかった。見守れるように努力はする。」


嫌な言い方になってしまったと思ったが、今の自分にはこれが精一杯の、雅へかけられる言葉だった。


「ありがとう。」


そう言って笑う顔は、お日様のように明るく綺麗な笑顔だった。



雅との関係、想の様子、かすみに対する気持ち、多くの問題を残した。一人で考えても、正解など出せるはずのない問題。それぞれの思いに変化が生まれた。関係が変わった。自分たちの中に芽生えた新しい気持ちと共に春が訪れる。


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