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そのカスミソウは、ピンク色  作者: 木原 美狼
変化
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黒木想 2


秋の図書室はいつもより雰囲気があって俺は好きだ。読書の秋、というくらいだから間違ってはいないだろう。この学校の生徒は、図書館を利用する人が少ないため基本的には仕事が少ない。今日もいつも通り、早くに仕事を終わらせいつもの席に座る。向かいの席に座るかすみが少し窓を開けた。


「ねえ、今日は少し話しをしてもいいかな。」


珍しくかすみは前置きをして話しかけてきた。いつもより少し落ち着きがありつつも震えた声に俺は自然と前のめりになる。もちろん断るはずもなく、かすみの声に耳を傾けた。


「前に、好きな人がいるって話したでしょ。あれね、雅のことなの。」


そういわれて俺は自然と納得していた。薄々気づいてはいた。かすみの雅を見る目、四人で話しているときの少しの違和感。その謎が全て解けた。


「そうか、雅か。それは色々悩むし複雑な気持ちにもなるよね。でも、なんで急に教えてくれたの?」

「うん。私ね、協力してほしいとは思わないけど、想君と雅が友達なら相談を聞いてもらう時に話しやすいかと思って。」

「なるほど。確かにそうかも。でも、協力はしなくていいの。」


普通なら協力してほしい、と思うものだろう。ましてやこの関係なら利用しようと思えばいくらでもやりようがあるように思う。


「だって、協力してもらうってことは、お互いに友達の不幸を願っているみたいじゃない。」


かすみははっきりとした落ち着いた声でそう言った。その視線は窓の外に向けられていた。俺も窓の外に視線を向ける。そこには奏多の姿があった。


「そうかもね。…俺も好きな人がいるって言っただろ。あれ、奏多のことなんだ。」

「やっぱり、そうだと思った。」


もう少し驚かれるかと思ったが、かすみは全く驚きもせず予想通り、という表情をしていた。そして、また視線を窓の外に移した。


「この席からサッカー部が見えるでしょ。最初はわからなかったけど、雅と奏多君と友達だって知って、四人で話している時とか、奏多君の話をしている時の想君の表情を見ればわかるよ。」

「え、顔に出てる?俺、表情に出ない方だと思うんだけど。」


よく人に、何を考えているかわからないと言われる。表情に出すことが苦手なので、この気持ちも誰にもばれていないと思っていた。


「んー、多分皆は気づいていないと思うよ。私も同じような状況だし、何よりこの時間があるから気づいたかな。」

「そっか、確かにこの時間は気を抜いていたかもしれない。」


居心地が良すぎて、全く気にせずに好きな人を眺めていた。でも、この気持ちはかすみに気づいてもらえてよかったのかもしれない。誰かに堂々と好きな人の名前を出し恋愛の相談をできることは良いと思う。


「俺たち、本当にどこまでも似た者同士だな。」

「そうだね、私たちの恋は叶わないけど無理に諦めなくてもいいよね。」

「うん、この気持ちは簡単に捨てられないし、これからも好きでいようよ。恋愛は自由だよ。」

「そうだよね。雅の幸せを願いながら好きでいようかな。」

「俺も、奏多の幸せを願っている。」


二人で笑いながら話したこの時間は大切な瞬間となった。好きな人の幸せを願う。でも、自分たちの気持ちも実ってほしい。恋愛は本当に自由でなんて身勝手なものなんだろう。お互いに、叶わない恋に向き合いながら相手の幸せを願おうと決めたこの日。俺はもう一度自分の気持ちを確かめた。



俺と奏多の出会いは、中学二年生の時。人と話すことよりも一人で本を読むことが好きだったので、休み時間はずっと本を読んでいた。そんな俺に話しかける人はいなく、クラスで孤立していた。それでも、話しかけられれば普通に話していたので、特にハブられたりはしなかったことが幸いだろう。ある時、放課後に教室で本を読んでいると奏多に話しかけられた。最初は自分とは違いすぎる性格の奏多にどう接していいのかわからなかったが、あの素直さを嫌いに思うわけもなくむしろ好印象だった。


奏多と話すようになって、雅とも仲良くなった。主に話すのはその二人だったが、以前よりもクラスの人と話す機会が増えた。表情が豊かではないため、誤解されそうになることもあったが必ず奏多が助けてくれた。頼りがいがあって、明るくて素直で優しい奏多に俺は惹かれていた。それまで、恋をしたことがなかった俺は最初は戸惑った。この気持ちが本当に恋なのか。友達に対する憧れとは違うのか。でも、本で得た知識や友達の話を聞く限り自分の中に芽生えたこの想いは恋で間違いないと気づいた。それが、中学二年の秋だった。


その気持ちに気づいたからと何か変わることはなかった。好きになったからと、どうやってアピールすればいいのかもわからない。今のこの関係を崩す可能性のある事をする必要があるのかと思った。奏多は男女ともに人気があったが、好きな人がいるという話は聞いたことがなかった。俺と奏多と雅の三人でいることが俺は幸せだと思っていた。


しかし、この関係が変わったのが中三の夏。奏多に恋愛相談をされた。相手は雅だった。最初は受け入れられなくて、話を逸らしたりしていた。でも、必死に悩んで真剣に考えている奏多に申し訳なくなり、俺も真剣に向き合うことにした。奏多は雅と二人で話すことが増えた。はたから見ればもう付き合っていてもおかしくないような距離感だった。もしかしたら、雅も奏多のことが好きなのかもしれないと予想した。そう考えると心が乱された。よくない感情が沸き上がった。でも、奏多が嬉しそうに報告するその姿が好きで、応援することをやめることができなかった。雅も俺に優しくしてくれて、その二人を嫌うことなんてできなかった。二人を嫌うことより、自分の気持ちを隠す方が簡単だった。感情が顔に出ないことがよかったとこれほど思ったことはない。


奏多はついに、告白する決心をした。俺は練習相手となり、奏多の告白の言葉を何度も聞いてアドバイスをした。その言葉が本当に自分に向けられたものならよかったのに、と何度思ったことか。その願いが叶わない代わりに、奏多と雅は結ばれた。俺は、それでよかったと思った。二人の幸せそうな笑顔を見ると、嬉しくて悲しくなった。俺は奏多を好きな気持ちを誰にも知られることなく、友達として過ごしていた。あの図書室で、かすみに出会うまでは。



外の空気が冷たくなると、奏多は暖を取るためにくっついてくる。まだ秋だというのに、寒がるのは早い。この暖を取る行動は友達の特権だと思う。きっと、自分の気持ちを伝えたらこうやって接してはくれなくなるんだろうなと暗い考えが頭をよぎる。そんな俺の考えには気づくことなく奏多はくっついてくる。伝えることのできない気持ちだけれど、愛おしいと思う。こういうちょっとした行動でさらに好きになるんだ。


そんなある日、奏多が真剣な面持ちで相談事があると言ってきた。いつもの明るい雰囲気がないことは珍しく、心配になった。ゆっくり話したいと言う奏多の要望で、奏多の家で話すことになった。


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