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そのカスミソウは、ピンク色  作者: 木原 美狼
切なる願い
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野坂雅 2


「連絡先だけでも交換出来てよかったね。かすみと奏多が仲良くなってくれると私も嬉しいな。」

「うん、俺も友達増えるの嬉しい。」


そう言いながら嬉しそうに笑っていた。今日は部活がないためいつもより帰りが早い。家に帰っても勉強する気にならないので、奏多とカフェで勉強会をすることにした。


「懐かしいね、中学の頃はお互いの家でよく勉強会していたよね。」

「そうだな、あの頃から雅は勉強が苦手で苦労したな。」

「勉強頑張ろうと思っているのに先にサボりだすのは奏多でしょ。」


といった矢先、奏多はノートに落書きを書き始めていた。


「できた、これ中学の頃の雅の似顔絵。」


そう言って見せてきたノートには何とも言えない出来の女の子が書かれていた。


「うん、まあセンスは人それぞれだからね。」


慰めの言葉をかけると奏多はまたノートに落書きを始めていた。



私たちは中学二年から仲良くなった。きっかけは奏多の落書き。隣の席になった時に教科書を見せてあげたら端の方に勝手に落書きをされていた。その落書きがあまりにも下手で私は思わず声に出して笑ってしまい、つられて笑った奏多と一緒に先生に怒られてしまった。その日から私たちは良く話すようになった。好きなテレビや好きな食べ物、会話のテンポが心地良くて私はいつのまにか奏多を好きになっていた。


奏多はサッカー部のエースで身長も高く頭もいい、モテる要素しかなくて男女ともに人気が高かった。三年生になってからも同じクラスですごく仲が良かったが、私は告白はしないと決めていた。もし、この気持ちを伝えることで、今の関係が変わってしまうならこのままのほうが良いと安全な道へ逃げていた。


でも、この関係が変わったのは卒業式の後の奏多からの告白を受けた時だ。私は嬉しくて、泣きそうになったが緊張と喜びで奏多が泣いたせいで私の涙は引っ込んだ。奏多の涙を見たのはあの時だけで、私は今でも忘れずに覚えている。


「奏多、私のこといつから好きだったの?」


あの頃を思い返していたらふと気になった。もしかしたら、私たちはもっと前から両想いだったのかもしれない、そんな淡い期待を寄せて聞いてみたくなった。


「えー今更聞くか?」


恥ずかしそうに腕を組みながら小さめの声で言う。


「中三の夏頃から。」


そうか。じゃあ、両想いだったのは告白される半年前くらいなのか。あの時、もっと早くに自分から告白していればよかったかな、など考えもしたが、あの時間は友達でよかったのかもしれないとも思った。


「私はね、中二の初めの頃から好きだったよ。」

「え、そうなの。もっと早くに勇気出していればよかった。」


と言いながら彼は私の方に手を伸ばし握手を求める。手を差し出すと、大切そうに包み込んで


「でも、今こうして付き合えてよかった。すごく幸せ。」


そう言ってはにかみながら笑った。「私も幸せ。」と包まれた手に力を込めて言った。私は今こんなにも幸せで環境に恵まれていると改めて感じた。結局テスト勉強はあまり進まなかったが、大切な時間を過ごしたからいいとしよう、とお互い納得した。



次の日、私は昨日の幸せな気持ちと懐かしい思い出話を話したくなり、かすみとお昼を食べることをいつも以上に楽しみにしていた。


「かすみー、お昼食べよう。」

「うん、今日はいつもよりテンション高いね。何かいいことあったの?」

「そう。昨日、奏多と勉強会という名のデートしたんだけど、すごい楽しくてさ。その時の話聞いてもらいたいなって。」

「いいね、雅の話なら何でも聞くよ。」


そのかすみの言葉に甘えて、昨日の出来事を話しだした。思い出すだけで、あの時の幸せな気持ちも一緒に蘇る。さらに、その幸せな気持ちを大好きな友達に話せるというこの状況が私にとっては最高の幸せだ。かすみは、笑顔で頷きながら聞いてくれる。時折、いいな、羨ましい、など相槌を打ちながら楽しそうに聞いてくれた。


「はあ、かすみに話せてよかった。聞いてくれてありがとう。」

「こちらこそ、幸せのおすそ分けをありがとう。」


やっぱり、かすみに聞いてもらえてよかった。楽しい昼休みは終わり、また授業が始まる。



あれから、毎日必死にテスト勉強をして何とかテストを乗り越えた。そして、その先にあったものは、毎日の部活と山のような課題だった。楽しい夏休みではあるが、遊ぶ時間はあまりとることができなかった。


かすみとは一回だけ遊ぶことができたがそれ以来会えていない。奏多とは、部活の時間が被れば一緒に帰ったりしたが、ゆっくりデートをしたのは二回ほどだった。高校生の夏休みはもっと自由で、青春だなって感じることができるものだと思っていたが違ったらしい。長いようで短かった夏休みは、気づいたら終わっていた。



夏休み明けにはテストがあり、何とか終えた課題の内容を思い出しながら解答欄を埋めた。夏休み明けに会ったかすみは、一段と可愛く見えた。夏休みの期間、私にとっての可愛い癒しの存在に会えなかったことが堪えているようで、かすみに抱き着くと一気に疲れが取れた気がした。「暑いよ。」と言いながらも私を受け止めてくれるかすみは天使だと思う。


「雅は今日部活ないんだよね。」

「そうだよー、一緒に帰ろうよ。」

「ごめんね、今日委員会があるんだ。」


すごく残念そうに言うかすみを見て私は迷うことなく、迷惑でなければかすみの委員会について行きたいと申し出た。かすみは、真夏の太陽のように眩しい笑顔で喜んでくれた。


「図書委員って何するの?」

「簡単な掃除と、本の整理とかが主な仕事かな。その日によって量は違うけど、今日は雅いるし少ないといいな。」

「そうなんだ。まあ私も手伝うから多くても大丈夫だよ。」


と図書委員について聞きながら、図書室に向かっていた。図書室は冷房も効いているし、居心地がいいと思う。私はどちらかというとお喋りな方だから、あまり図書室には行ったことがない。行くとすれば、涼みに行くくらいだ。図書室の鍵はもう開いていて中に入るとそこには見覚えのある人がいた。


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