感染した意識
「では次のニュースです・・・
今日未明、東京都葛飾区にある○○高校の体育館で
男性4人が首を吊って死んでいるのを、この学校の生徒が発見しました。
警察の調べによると、この4人の男性は6年前にこの高校を卒業した生徒で
事件現場に署名入りの遺書が見つかった事から
集団自殺として捜査を進めています。
現場に○○記者がいます。○○さん!?」
「はい、こちら現場となった○○高校の体育館前に来ています。
4人の遺体が発見されたのは、今日午前8時ごろ。
一時間目の授業で体育館を使おうとしていたこの高校の女生徒が
体育館の中央で首を吊って死んでいる4人を発見しました。
事件現場に自殺を遂げた4名の名前が書き込まれた遺書が発見されている事から
捜査当局では「集団自殺」として、捜査を進めています。
集団自殺を遂げた4名の男性は、6年前にこの高校を卒業した生徒たちなのですが
実はその6年前、当時この学校に通っていた女性徒の一人が行方不明になっており
未だ発見されていない事からも、何らかの繋がり
あるいは事件に巻き込まれた可能性もあるとして
警察では集団自殺と、過去の失踪事件と併合して捜査を進める方針です。
現場からは以上です・・・・・・」
***************
あの日は確か、朝から雨が降っていたと思う。
昨晩から続いた台風の接近による大雨の影響で、授業の始まりが少し遅れて
本来ならとっくに学校へ着いている時間にも関わらず
集まっていた生徒は疎らだった。
台風による大雨が押し寄せる暴風と重なり合い、横殴りの雨が降り注いでいた。
そんな僕、大橋 明良も、乗っていた電車が止まってしまって
学校に到着したのは9時半を少し過ぎていた頃だった。
学校の玄関で友達の横溝 直弥と田端 健次郎
そして僕らの仲間内ではリーダー格の桃井 茂が
「かったりぃな〜」とか言いながら、遅れて入ってくる生徒たちと共に上履きに履き替えていた。
そして彼らは僕の存在に気が付き
「よう!」
と、軽く手を上げた。
直弥と健次郎は茂の片腕みたいな存在で、喧嘩の強い茂にへつらうような態度で接している。
いくら喧嘩が強いからと言って、僕は茂るにへつらうような素振りは見せなかったけど
この高校に入学するまで誰一人僕と友達になってくれた人はいなかったから
嫌われるのが怖くて、いつも茂たちと一緒にいた。
彼ら3人は僕に良くしてくれる。茂は乱暴だけど仲間は大切にしたし、弱い僕をいじめたりしなかった。
高校には茂以外にも悪そうな連中は何人かいた。
だけど「茂の仲間」と言うある種の「ブランド」がある限り、そんなグループから嫌がらせを受けたり
暴力行為を受ける事はなかった。
それだけこの学校における茂の存在は大きいものだった。
「なあ、明良知ってるか?」
茂は突然僕に話を振った。
「何?」
「ウチのクラスに寺山 美由紀っているだろ?」
「ああ、大人しい感じの子だよね」
「そうそう。あいつさ、物理の青木とデキてるらしいぜ」
「ええっ!それほんとなの?」
「マジよ、大マジ。昨日、健次郎が寺山と青木がホテル入って行くの見たって言うんだ」
青木と言うのはウチの学校で物理を教えている割と若い教師。
年齢は28歳。身長は180センチくらいあって、顔も悪くない。
他の女生徒からも人気のある教師である。
「何だか信じられないな〜」
「でもよ、それを青木にバラしたらどうなんのかな、面白くねぇ?そういうの」
「そ、そういう事は良くないよ」
僕は苦笑いでそう答えた。
「そうか?だって教師と生徒なんて禁じられた愛じゃねぇかよ。不謹慎で不潔だぜ」
「つうか、俺たちにもヤらせてくれねぇかな〜」
話を聞いていた直弥が言った。
「お、良いねそれ!?青木だけオイシイ思いをするなんて許せねぇ。いっそバラしてやるか・・・」
仲間内において茂の権力は一番大きかった。
直弥の言った「俺たちにも・・・」と言う発言を真に受けたわけではなかったが
生徒に手を出す教師の存在は、当時彼女のいなかった僕たちによっては
何だか「自分だけ良い思いをしている」と言う思春期ならではの思いに駆られた。
寺山がそれほどの容姿でなかったら、さして何も思わなかっただろう。
しかし、クラスにおいて寺山の存在は他よりも群を抜いているものがある。
おそらくクラスの女生徒中では一番可愛いタイプに入るだろう。
発育の進んだ肉体も他の生徒とは違い、出るべき場所はきちんと出ている。
最も、そう言ったいわば「魅惑の果実」だったからこそ、青木もその甘い蜜に手を出したのであろう。
教師、そして生徒と言う立場を利用し、淫らな行為に走る関係など、不潔以外の何者でもなかった。
茂はとうとう実行に移した。
「物理の青木と寺山は肉体関係を結んだ」と言う確認すら取れていない事実をデッチ上げ、公共に晒した。
高校生と言う時期は精神的にも肉体的にも、まだ発展途上国に位置し
性的な言葉や行為に敏感な時期である。
噂は噂を呼び、茂の言葉は様々な形を変えて変化し、その噂はとうとう他の教師の耳にまで届くようになった。
その後青木は学校側の教師だけでなく、教育委員会にまで叩き上げられ
もはや学校にいることは不可能となった。
その決め手となったのは、青木と寺山が肉体関係化にあったという証拠を示すものが出てきたのである。
それが二人揃ってホテルへと消えて行く場面を捉えた写真であった。
しかし、この写真は密かに直弥がパソコンを使って合成したニセモノの写真であり、本物ではなかった。
ホテルに入っていく青木と寺山の姿を見たという証言も、本当にそれが青木と寺山だったかどうかなど定かではない。
それでも自体は悪化するばかりで、もはや引っ込みの着かぬところまで来ていた。
青木はとうとう学校を去った。
そんなチャンスを逃さない茂たちではなかった。
すっかり孤立してしまった寺山にちょっかいを出す日々。
「淫乱」「メスブタ」などといくらこちらが罵声を浴びせても
寺山は表情一つ変えず、動じなかった。
だがある日、寺山は茂たちにこんな事を言った。
「あの写真、貴方たちが作ったんでしょ?知ってるわよ。
今度は私が貴方たちの動かぬ証拠をバラしてあげようか?」
驚いた事に寺山は直弥以上にパソコンに詳しく、スパイウェアを使った覗き行為で直弥のパソコンをハッキング。
そこには合成作業に使われた寺山の写真、そして青木の顔写真が残されていた。
この事実に茂たちは驚愕した。
それと同時に言い知れぬ不安感が襲い掛かった。
ヤツは証拠を握っている。それを持っている以上、恐喝されてもおかしくない。
そもそもの時点でそれをバラされたら、名誉棄損で訴えられ、場合によっては書類送検
最悪の場合「逮捕」もありえる。
この場合嘘の証言、そして偽りの合成写真を作り、寺山だけでなく青木の立場まで破壊しているため
問われる罪の重さはかなり大きなものとなる。
どうにかして動かぬ証拠を取り戻さねばならない・・・・。
明良が茂たちの企みを知ったのは、事件が起こった当日の夕方だった。
警察による「逮捕」と言う文字に、もはや震え上がって気が動転している茂たちを前に
明良はどうする事もできなかったのだ。
茂に「お前も共犯なんだぞ」と抉るようなトドメの一言が突き刺さった。
茂はやはり大雨の降っている今日を見計らって、下校途中の寺山をクロロホルムを使って拉致。
すっかり眠りに落ちた寺山を高校の体育館へと移した。
豊満な肉体を持つ寺山の身体は、我を忘れた獣たちの餌食となった。
もはや逃げられなかった。
押し寄せる快楽の中、明良も我を忘れ、無我夢中で寺山の身体を汚した・・・・。
そして全てが終わると、茂たちは寺山の首を力強く絞め、その生涯を強制的に終わらせた。
人を殺したと言う究極の行為による罪悪感、そして何よりも不気味な感触と病んだ達成感が全員を包み
気が付けば寺山の身体は体育館の軒下にある狭い空間に埋められていた。
****************
あれから6年の歳月が過ぎた。
茂たちは「この事は無かった事にしよう」と堅い約束をし、それぞれの人生へと戻って行った。
寺山の失踪は当時大々的に発表されたが、幸いな事に彼女が発見される事はなく
容疑の疑いすら明良や茂には向けられなかった。
(あれは夢の世界の出来事なんだ・・・・何も無かった。僕は何もしていない・・・・)
いつしか明良たちの記憶から罪の記憶は消え去り、やがて曖昧な記憶として変換され
終には「忘れ去られ、良いように置き換えられた記憶」として、心の中で抹消されて行った・・・。
その後の警察の動きにも変化無かった。彼らに容疑の眼差しが向けられる事も無い。
そんな安心感がより一層記憶を曖昧なものとし、あの忌まわしき過去を完全に白く塗り潰したのである。
ある日の事、明良、茂、直弥、健次郎の元に、それぞれ同じ封書が届けられた。
差出人は明記されておらず、一体誰が送ってきたのか分からない。
だが送り先の住所は間違っておらず、手書きの文字がしっかりと書き込まれていた。
「なんだろう・・・・」
先日24歳の誕生日を迎えたばかりの明良は、家に帰るなりその封書を開けてみた。
そこにはこう書かれていた・・・・。
「お前は忘れる事が出来ても、私は忘れていない・・・・」
開封当時、明良にはこれが何を意味するのかまったく分からなかった。
文字はワープロで打たれており、色は赤かった。
「タチの悪い悪戯か・・・・」
そう思った瞬間、明良の脳裏に過去の映像が蘇った。
毒々しい過去が少しずつ扉を開け、そこに閉じ込められていた黒い過去が這い出てくる。
居ても立ってもいられない感情が込み上げ、明良は思わずトイレに駆け込んだ。
ちょうど同じ頃、明良の住む家のチャイムが鳴った。
「誰だ・・・・」
明良は恐る恐る玄関に出て、ドアを開いた。
「大橋 明良さんですね?6年前に○○高校に通っていた」
「はい、そうですけど・・・」
「我々はこう言う物でして・・・・」
ドアの前に立っていた2人の男はポケットから手帳を取り出した。
それは「警察手帳」だった。
明良の身体が凍り付く。
「な、なんでしょうか?」
「実は昨日ですね、我々署の方にこんな文章が送られてきましてね」
いかにもベテランと言った片方の刑事が一枚の紙切れを取り出し、明良に手渡した。
「こ、これは・・・・」
そこに記されている文章を読んで、明良も身体に今度は電撃が走った。
「大橋明良、横溝直弥、田端健次郎、桃井茂は、6年前に起こった女子高生失踪事件に関わっている。
彼らはひょっとしたら彼女を殺したかも知れない」
紙にはそう書かれていた。
「じょ、冗談でしょ?」
「ええ、私たちも冗談だろうと思ってます。一体誰が送ってきたのかも分かりませんし。
しかし、内容があまりにも現実的なので、いろいろと調べさせていただきました。
6年前に○○高校の女生徒と、物理の教師だった青木さんと言う方が関係を持っていたという
噂が流れたそうですね?」
「え、ええ。確かにそんな事がありました」
「なにやら証拠の写真があったそうですね」
「ええ、まああった気がします」
「実は先ほど大橋さんの自宅を伺う前に、横溝さんのお宅に行ってきたんですよ」
横溝と言えばあの時、6年前デッチ上げの合成写真を作った張本人である。
「そ、そうなんですか・・・」
「ええ。まあ何と言いますか。その合成写真は横溝さんが作ったのではないか?と言う話が
いろんな場所で上がりましてね。ちょっと突っ込んで聞いてみたところ
自分が作ったと正直に話してくれました」
明良は愕然とした。刑事たちの話に寄れば直弥は自分が写真を合成させた事を自供したという事である。
ここまで過去が明らかになってくると、いつ誰が全てを喋るとも分からない。
実行犯の茂はともかくとして、気の弱い自分や健次郎などは一番最初に根を上げそうではないか。
自分が隠し通したところで、他の誰かが全てを喋ったらもはやアウトである。
「それでですね・・・」
刑事は再び話し出した。
「その青木という教師と関係を結んでいたのが何を隠そう、6年前に失踪した女子高生
寺山美由紀だと言う事は勿論ご存知ですよね?」
「も、勿論・・・知ってます。クラスメイトだったので・・・」
「ですよね。我々としてはどうも引っ掛かるんですよ。
偶然にしちゃあまりにも出来過ぎている。そう思いませんか?」
刑事は誘導尋問のような行動に出てきた。これは明らかに「明良が何か知っているのではないか?」と言う態度を
全面に押し出している証拠である。
「さ、さあ。どうなんでしょうね・・・僕にはさっぱり・・・」
「まあそうですよね。なんせ6年前ですから。記憶も曖昧になっているでしょうしね。ただですね・・・」
再び刑事が話し出した。
「貴方たち4人以外の当時のクラスメイトにも話を伺っているのですが
貴方がたの間ではリーダー的存在だった桃井茂が、一番最初に寺山と青木が関係を持っている事を
言い振らしたと話しているんですよ。仮にですよ?もし寺山と青木がまったく関係を持っておらず
嘘の情報を学校中にばら撒かれたとしたら、寺山美由紀や青木自身が貴方たちに強い恨みを持っていても
おかしくは無いですよね?」
刑事たちはいよいよ確信に迫ってきた。徐々に明良は余裕が無くなって行く。
「さ、さあ・・・良く分かりません・・・」
「そうですか・・・。では最後に一つだけ答えてくれますか?」
「なんでしょう?」
「あの事件から6年経ち、今○○高校生は寺山美由紀の妹さんが通ってらっしゃる事をご存知ですか?」
初耳だった。まさか寺山美由紀に妹がいるなんて知らなかった。
「いえ、知りませんでした」
「そうですか、どうもありがとうございました」
そう言うと刑事たちは去って行った。
もはやこれまで・・・・そんな言葉が脳裏を過ぎる。
明良自身はそれで良くても、他の誰かが喋ってしまう可能性は非常に強い。
荒らされていない限り、寺山美由紀はあの高校の体育館下で眠っているはず。
一刻も早くあの場所から寺山美由紀の遺体を掘り起こし、抹消する必要があった。
警察が美由紀の遺体を発見したら、もはや逃げる術は無い。
DNA鑑定でもされたら、一目で犯人が割れてしまうのだ。
その日の深夜、明良は静まり返った闇の中に身を隠し、○○高校へと向かった・・・。
「こ、これはっ!?」
○○高校の体育館へ辿り着いた明良の目に、信じられない光景が飛び込んできた。
「茂・・・直弥・・・健次郎・・・」
そこには天井から長い紐を首にかけ、空中にユラユラと揺れている3人の姿があった。
「そ、そんな・・・どうして・・・こんな事を・・・・」
明良の心臓が早まる。それと同時に過去の過ちが蘇ってくる。
「待ってたわよ」
「だ、誰かいるのか!?」
「フフフ・・・私よ、忘れたとは言わせないわ」
体育館の隅から明良へ向かって歩いてくる人影があった。
「お、お前は・・・て、寺山・・・・!?・・」
そこには死んだはずの寺山美由紀が立っていた。
高校の制服を着ており、事件当時そっくりの姿をしている。
しかし、寺山とはどこか雰囲気が違って見えた。何かが違う・・・。
「貴方も私を姉と間違えるなんてね」
「えっ・・・ど、どう言う事だ・・・」
「私の名前は寺山美紀。美由紀の妹よ」
明良は昼間尋ねてきた刑事たちの言葉を思い出した。
寺山には妹がおり、現在この高校に通っていると言う話を確かに聞いた。
「ど、どうして妹の君がここに・・・・」
「決ってるじゃない。今は亡き姉に代わって貴方たちに復讐するためよ」
「ふ、復讐!?」
「忘れたわけじゃないでしょうね?貴方たちが姉に何をしたのか」
「そ、それは・・・・でも、どうして君が・・・・あの事を・・・」
「フフ・・・知りたい?そうね、どうせ死ぬんだし冥土の土産に教えてあげようかしら」
美紀はそこで言葉を切ると、静かに語り始めた。
「姉の美由紀が失踪したとき、私は本当に失踪したのだとばかり思っていたわ。
事実、姉は暗かったし、何か思い悩んでいるように見えた。
だけど、失踪した騒がれて数ヵ月後、姉は私の夢の中に出てきて、全ての真実を見せてくれたわ」
「ゆ、夢の中で・・・・・」
「そう、貴方たちに嘘の噂を流されて、物理の青木先生とデキていると噂された。
でもね、青木先生と姉はそんな汚れた関係じゃなかったのよ。
だって青木先生と私たちは腹違いの兄妹なんですもの」
「なっ!?」
意外な事実が明らかになった。
「青木先生と姉が一緒に入って行った場所は法律事務所よ。
腹の違う親同士が争っていたから、2人とも弁護士に呼ばれて訪れていただけ。
偶然事務所のすぐそばにラヴホテルがあったから、そこに入ったとばかり勘違いしたのよ」
「そ、そんな・・・・・」
「弁護士によってようやく私たちは一緒に住む事が許された矢先だったと言うのに
貴方たちは嘘の情報を元に、嘘の写真を作って青木先生と姉を精神的に追い詰めた・・・」
美由紀の妹、美紀の表情までは分からなかったが、ただならぬ殺気が周囲に充満している。
「その後の事は説明しなくても分かるでしょ?貴方たちは姉の身体を弄び、殺した!?」
美紀が悲鳴のような叫び声で言い放った。
「貴方たちは自分たちの記憶を良いように置き換えた。自分たちの過ちを無かった事にしようと
6年と言う月日を掛け、記憶を完全に消し去った。でもね、私も姉も積もり募った恨みは消えなくてよ」
「ま、待ってくれ!?ど、どうして君がそこまで知っているんだ!?
ま、まさかあの時君は現場に・・・・」
「違うわ」
「だったらどうして・・・」
「この世に強い恨みを残して死んだ人間の思いは、生ある者へ感染するのよ。
姉は殺されたけど、死んだ姉はいつも私の夢に出てきて、貴方たちの事を教えてくれたわ。
あの事件を亡き物にしようとしているってね!?」
「そ、そんな・・・バカな・・・・」
明良は自分が失禁してる事に気が付かなかった。
「有り得ない事じゃないわ。死んだ人間が夢枕に立つって有名じゃない。
事の真相を知った私は貴方たちに復讐する事を誓ったのよ。
貴方たちと警察に送った文面は私が書いたもの。精神的に追い詰めるために書いたのよ」
「そんな・・・あああ・・・でも・・・あああ・・・」
美紀の言葉によって封印されていた過去の記憶が鮮明に蘇る。
自分のこの手で彼女を汚し、そして殺した。自分たちに着せられた罪から逃れるために。
だがそれだけでは飽き足らず、今度は自分の記憶さえの亡き物にしようと
都合の良いように置き換えた。本当は罪深き人間なのだ。
自分は自分たちの謝った解釈のせいで、他人を不幸に追いやり
その不幸を背負うどころか抹消してしまったのだ。
我が身可愛さの余り、一人の人間を殺したのだ。
「姉は私に言ったわ。貴方が私が殺された高校3年になるまで待ちなさいってね。
それから6年間、私はずっと耐え続けたわ。だけど、これでもう終わり。
見れば分かると思うけど、もう貴方以外は自分で死を選んだわ」
「あああ・・・あああああ・・・」
まともな思考力が崩れ去った明良は、目の前でユラユラと揺れる茂たちを見上げた。
「彼らは自分で死を選んだのよ。今の貴方みたいに耐え切れなくなってね。
最も、このロープだけは私が用意したものだけど・・・・
さあ、生きるか死ぬか、貴方の好きな道を選びなさい。
だけど仮に生を選ぶのなら、私は事の全てを警察に話す。
どちらにしても逃げられないわ」
美紀は高笑いでもするように吐き捨てた。
「どうして・・・・どうして・・こんな事に・・・」
大量の涙を流し、鼻水を流しながらゆっくりと立ち上がった明良が言った。
「仕方ないわよ。貴方たちがあんな事するから。
あの時、ちゃんと罪を認めて償っていれば
私の夢に姉が住み着くなんて事はなかったかも知れない。
バカな人たち。事実から逃げようたってそうは行かないのよっ!?」
「ううう・・・・くううう・・・・・」
明良がフラ着く足取りで、天井から垂れ下がるロープへと近付いた。
「それじゃ、後はご自由に。
ああ、そうそう。貴方たちの遺体だけど、ちゃんと私自身が通報しておくから安心しなさい」
美紀はそう言うと、不気味なほど静かな足取りで体育館を後にした。
美紀が体育館を出た瞬間、明良の喉元が熱くなり、意識が朦朧とし始めた。
そして徐々に視界が暗くなり、やがて安らかな眠りが彼を包み込んだ・・・・。
*****************
「自殺したのは、6年前この高校に通っていた大橋 明良、横溝直弥
田端健次郎、桃井茂。その後の調べで体育館の下から遺体となって発見された寺山美由紀を殺した4人です。
これは遺体にわずかに残っていた指紋と、複数の髪の毛によって明らかになっています」
事件を担当した葛飾署の大村が警部の高谷に言った。
「しかし、何故6年も経った今彼らは自殺したんだろう・・・・
6年間も己の過ちに捕らわれていたとは考え難い」
高谷が言った。
「それに、奇縁ですかね。最初に警察へ通報したのが、6年前殺された寺山美由紀の妹、寺山美紀だとは」
「むうう・・・・・・」
「どうしました、警部」
「お前、寺山美由紀の妹、美紀にあって感じた事は無かったか?」
「感じた事?いえ、特にありませんでしたが」
「そうか、俺の思い違いか・・・・」
「どういう意味です?」
そして高谷がこんな事を言った・・・・。
「妹の美紀の顔なんだが・・・6年前に殺された美由紀の顔そっくりだったぞ」
END