最適な差
「先輩」
「ん?どうした」
今日は予定がないから一緒に帰ることになったので駅まで一緒に歩いている途中、いきなり声をかけられた。
「先輩って身長何センチなんですか?」
「4月身体検査の時は確か173、4らへんだった気がするな。平均を超えたぐらいとしか覚えてないからな」
「そうですか」
何やら考え込むそぶりを見せる。
「...知ってますか、先輩」
「何がだ?」
「最適な差です」
「...うん?」
急に何か変なことを言い始めたぞ。大丈夫か?
「この世界にはある事柄における最適な差が存在するんですよ」
「ふむふむ」
「例えばですね、テーブルの高さとイスの座面との差が最適なのは一般的に27~30cmなんですって」
「へぇー、知らなかったな」
「ほかにもですね...」
歩きながらいろいろな最適な差について話してくれた凛。いつもは長く感じる駅までの道も今日はあっという間に感じてしまう。
駅まであと少しというところで俺はあることに気がついた。
「なでなでするには16cm、抱きしめ合うのは20cmなんですって」
「は、はぁ」
さっきから一定の方向に話題のカーソルが移動していってる気がするのだが?
「そして、キスに最適な差は12cmなんですって」
「ほー」
「私の身長は160cmで女の子にしては高いほうですよ」
「確かにそうだな」
何やらニヤニヤしている。なんだ?
「で、先輩の身長はいくつなんでしたっけ?」
...そういうことか。最初からこれが目的か。最初に俺の身長を聞いてきたのもこのための布石ってわけか。
すごくいい顔をしながら聞いてくるな。
「どうなんですか?」
さてどうしたものか。
そう悩んでいるとあることを思い出した。
「たしか175cmだったかな」
「...そうですか」
見るからにテンションが下がっている凛。きっと望んでいた答えじゃなかったんだろう。
電車がもうすぐ来るとのアナウンスが聞こえて来たのでここで凛とはお別れだ。
「じゃ、また明日な」
「はい、また...」
凛に背を向けて歩き出すが最後に一言だけ言うために振り返る。
「なぁ、知ってるか?」
「なにがですか?」
「理想のカップルの身長さって15cmらしいぞ」
「...なっ!?」
そういって俺は駅に向かって歩き出そうとするが止められる。
凛が俺の制服の裾を弱々しく引っ張っている。
「...そういうことはもっと直接言ってほしいのに」
俯きながら消え入りそうな声でそんなことを言ってくる。
そんな凛に頭を撫でてあげる。
「な、なにするんですか!?」
「別に最適じゃなくたってできるんだからな」
「そんなの分かってますよ...」
俯いているが嫌がっている感じではないので凛が満足するまでずっと頭を撫でていた。
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