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冷風

作者: ワラシベ選帝侯

暑い。

朝のニュースによると日中の気温は30度を越えるそうだ。

ただでさえそんな気温なのに、ビルの反射光や熱を吸収したアスファルトが加わると肌が火照るほど暑い。

立っているだけで汗が滲んでくる。

私は地面から革靴に伝わる熱を足の裏に感じて歩きだした。


駅の改札口を抜けて、そのまま階段を降り、地下通路に出た。

地下通路はまるで季節に置いて行かれた別世界の様だった

滲んだ汗に染みる冷風。

とても気持ちが良かった。

だがいつまでもそこにいることはできなかった。


私は階段を上がって向かいのホームに出た。

待合室は例のごとく人で埋め尽くされていた。

ため息をついてホームの左端、いつもの場所へ。

特に、やりたいことはなく携帯を触ったり音楽を聴きたいとも思わなかったので、私は人目を気にせずぼーっと空を見上げた。


雲。高く大きい雲。入道雲。夏の入道雲だ。

真っ青なキャンバスに白の絵の具を塗りつけたような、まさにそんな雲だった。

暑さも忘れてそれをしばらく見ていると、ふと突然、自分がアニメかマンガの中に入っているような感覚が押し寄せてきた。

それは長い間忘れてしまっていた感覚だった。

私は小学生の頃の記憶を思い出した。


スーパーヒーローになって世界を救う。

それが幼い私の唯一の夢であった。

兄弟がアニメ好きという事もあって言葉を覚えるよりも先にアニメを見ていた私は本気でその夢を実現できると思っていた。

小学1、2年にその夢を発表すると先生、生徒から賞賛された。「〇〇ならできるよ」と言われてとても良い気分になった。

しかし、高学年になると世界が一転した。夢を発表する度に冷やかされ、馬鹿にされ、現実を見ろと叱られた。

次第に、私は自分の夢が恥ずかしくなっていった。

そして、先生から言われた一言。

「そろそろ大人になれ」

この言葉で私の夢は崩れ去った。

いや、私の夢は叶うもなにも元々現実では無かったのである。


もし、あのまま夢を追い続けていたらどうなっていただろう。

スーパーヒーローになっていたというのは到底ありえないだろう。

それでも夢を追い続けていた時間は少なくとも今よりは幸せであった。

死んだように生きている今よりは。


目の前に電車が止まった。

待合室からぞろぞろと人があふれ出た。

他の乗客と共に私は車内に入った。

車内はまるで季節に置いて行かれた別世界の様だった。

滲んだ汗に染みる冷風。

とても気持ちが良かった。

だがいつまでもそこにいることはできなかった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーー

受験期の病んでる時に書いたミニノベルです。


「都会、アスファルト、暑さ」

「現実や大人や社会常識etc...」で


「雲、冷風、待合室」

「欲望や子供や夢etc...」


という暗喩こじつけです

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