Ⅳ別れ道
ついに咲哉が………
「うっ……………」
頭がズキンズキンする。からだの節々も痛い。目に写るのは見知らぬ部屋。
「知らない天井だ………」
言ってみたかっただけ。にしてもどこだろうか?ここ。心電図や点滴があることから推測するに病院の一室らしい。そしてその点滴が繋がる先には僕の腕がある。つまりアイアム患者。
え、点滴?
…………………………死んだ。
「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁぁぁぁあぁぁ!!!」
「はえええええええええ!?」
ヒロが飛び上がってこけるが関係ない。
「どどどどうした咲哉!?」
「助けてヒロ刺さってる刺さってる!!!」
刺さってるのだ針が!!
「針刺さってる針針針針ヒロヒロ助けてうわわわわわわわわわ!!!」
「え、あ、ああ、そういうことか。良かったぁ」
「ほっとしてないで助けてよぉー」
「外すわけにはいかないだろ、だいぶ衰弱してたんだぞ」
ううう…………こわいよ~。でもなんで点滴?僕の天敵の点滴が何故腕に?
「まったく。俺の眠りと首の関節と筋肉と尻の肉の痛みを返せ。あと心配」
「心配は最後なんだね。ひどいよおヒロぉ」
前の三つは僕とは無関係だ!
「ひどいとはなんだ。俺が付き添ってやってるってのに」
「付き添いって……あれ? なんで僕病院にいるんだっけ?」
「え? ……あーそっか。覚えてないか」
「……とりあえず、山下ってる最中に、斜面を転がり落ちたのは、覚えてるか?」
「えっと…………ああ、思い出した」
「それで、大したけがは無かったんだけど、救助までに時間がかかってずっと雨に濡れてたから体温も下がって弱ってたんだよっ」
心配…………するよね、そりゃあ。そっか、心配させちゃったか…………
「……………ごめんなさい」
「ん。よろしい。それじゃあリンゴでも食べる?」
「食べる!」
コンコンコン
「あ、はーい」
誰だろう?
「失礼します。元橋咲哉さんの主治医の斉藤 孝です」
「あ、はい」
「おっと、お見舞いの方もいらっしゃいましたか。すみませんが少し席を外していただいても………」
「あのー………先生。彼は、大丈夫です」
先生が来たってことは病状の説明だろう。ヒロがいないとダメだ。一人だと僕はなにもできない。ヒロがいないと不安になる。それに僕とヒロは二人で一人だ。どっちかが欠けたらダメなのだ。
「あ、本人承諾のもとなら自由ですよ。では、元橋さんの病状について説明させていただきます」
よかった、先生には伝わったようだ。少しほっとしてヒロをチラりと見ると、ヒロと目があった。これだけで元気がでる。
「えっと、肺炎………?とかじゃないんですか?」
「はい。簡単に言いますと、
元橋さんの体は男性の体から女性の体へと変化しました」
え、………………………?はぁ?
「ど、どういうことなんですか!?咲哉は崖から馬鹿みたいに転がり落ちただけですよ!」
「ちょっと待とうかヒロ。『馬鹿みたいに』っていらなかっただろ!」
「うっさい。お前は黙れ」
ペシッ
「あびゃちっ!」
いたた……………………。叩かなくてもいいじゃないか。オニオコぷんぷん丸だ。
「それで先生、どういうことなんですか?」
ヒロが熱くなってる。落ち着きがなくなってる。だからさっき叩いたのかな。なら仕方ないか。
でも落ち着いてもらわなきゃ困るので『もー、当事者は僕だぞ』そんな意味を込めてヒロの腕をつかむ。一瞬ヒロが払い除けようとしたけども、冷静さを取り戻したのか静まる。
「原因は……………残念ながら全くもって不明です。とりあえず現状分かることは、咲哉さんの体が女性へと変化したことだけです」
「……………………前例とかって……」
「一件だけあります。ケースとしては真逆ですが、元橋さんと同じ、日本の中学一年生の少女が高熱を出し、病院に運ばれると体が男性のものとなったというものです」
「元には………」
「戻らないままだったそうです。ですが85歳まで生きてらっしゃったそうなので命に関わることはありません。ちなみにその患者さんは結婚し、子供もできました。なので生物学的には全く問題はありません」
生物として問題なくても社会的には問題大有りじゃないか。体育の着替えとかトイレとかどうすんのさ。さっきまで主導権を握っていたヒロがしゃべらないので聞いてみる。
「これって戸籍やら学校やらってどうなるんですか…………?」
「診断書を書きます。それを学校や役所に提出してください。そうすれば変更などはできます。退院はいつでもできる状態です。本人が精神的に立ち直り次第という感じです。以上ですが、質問などは……」
ヒロが切り上げる。
「と、とりあえずのところは大丈夫です」
「では、失礼します」
「あ、はい……ありがとう………ございました」
なっちゃいました!