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初恋は親友でした~Side of Sakuya~  作者: みやじい
蛇足 未来とその先 〜extra text〜
12/12

After 行ってらっしゃい!

またお会いしましたね

 バタンっ


 ドアの閉まる音で私の一日は始まる。


「うー、今日も起きれなかったなぁ……」


 学生の頃から家事スキルとか、淑女スキルとかは上達したのだけれど、未だに早起きは出来ない。見送ってあげたいけれど成功するのは月に一度あるかないか。無駄に何でもこなしてしまうから目覚ましにも頼らずに起きて、朝ごはんも自分でして出て行ってしまう。


「まー、今日も一日頑張りますか〜」


 お気楽さはあの日からかれこれ20年たった今でも変わらない。どうにか身長も少し伸びて、胸もふくよか気味にはなったけれど、根っこの部分は相変わらず楽観主義のおてんば娘でママ友に『まだまだ若いね』なんてからかわれる始末。


 うっせぇこちとらまだ三十路じゃ。まだまだうら若き乙女じゃ。



 けれど明日で結婚10周年かー、早いな〜。


 ケーキでも買ってきて少し豪華なディナーにしようかな、そんな風に少し心を弾ませていたら一通り朝の支度が終わった。


咲穂(さきほ)ー! 学校始まるよー!」


「んっ、、、ふぁ、おはよーまま」


「もう二年生なんだから自分で起きなよ、起こすのめんどくさいし」


「ままだっておきるのぱぱよりおそいじゃん」


「大人はいいんですぅー」


『まま』なんて呼ばれるとは昔は微塵も思ってなかったし、実際呼ばれるまで母親になった自覚も無かったなぁ。


 もう女として生きる方が幾分長くなったけど、それでも最初が男だったせいかイマイチまだチグハグで。


 それでも私に似て超絶×激かわいい長女に恵まれ、


「ままー、ひろくんはおこさなくていいの?」


弘也(ひろや)はまだ一歳でしょーが」


「ひろくんだけずるいー」


「良いから朝ごはん食べちゃいなさい!」


「はーい」


「『はい』は短くしなさい!」


「はいはい」


「『はい』は一回でしょ!」


「はーい」


「こら無限ループしない!」


 きゃははは、と笑いながら朝ごはんを食べる娘を眺めながら、まだ幼い長男を抱ける幸せが、否が応でも自分が『母親』になったことを実感させる。


 つか無限ループ通じるんかいこの8歳児。ようつべの見すぎだ。


「お洋服自分で着れる?」


「ままがやってー」


「面倒臭いからやだ。自分でしなさい」


「さきもめんどくさいからやーだ」


「もう、こういう悪知恵が働くのはパパ似かなぁ」


『いや咲夜だろ絶対』


 どこからか聞こえてくる天の声を無視して咲穂に服を着せる。


「よし、出来た〜、ほれ行ってきな」


「行ってきます!」


 ちゅ


 かわいいキスをして家を出る愛娘を見送る。


「さて、洗濯物をどうにかしますか」


 ソシャゲのイベントのせいで後回しにした昨日の自分を恨みつつ、タイムマシンに乗って過去に戻っても歴史を繰り返すんだろうなと思いつつ、くさーい靴下を洗濯機に放り込むのだ。













「ままー」


「ん? どうしたの?」


「きょうね、がっこうでね、しゅんくんのままのはつこいのはなしになったの」


「うん、最近の子は少し進み過ぎてると思ったのがママの感想だよ」


「それでね、ままのはつこいはだれだったの? ぱぱ?」


「無視ですかー、んー、ママの初恋はね〜……



 『親友』



 だよ」


 もう少し大きくなったら、パパとママの恋物語をこれでもかと言うほどしてやろうかしら、そんな風に咲穂の頭を撫でながら空想するのである。彼は隣で顔を真っ赤にするのだろうな、なんて。














「ただいまー」


「おかえり〜、あれ、今日飲み会とか言ってなかった?」


「うざったいから断ってきた」


「もー、だから友達出来ないんだよ?」


「黙れコミュ力お化け」


「家の事なんか気にせず飲んでくればいいのに。ねー、ヒロくん」


「ぎゃ?」


「弘也はちゃんとお友達を作れる子になるんですよー?」


「ぎゃ」


「おい咲夜、俺も中学までは上手くやってたんだぞ? 知ってるだろ? なあ?」


「あ、そうだ、ご飯にする? お風呂にする? それともわ・た・し?」


「おい人の話を聞けよ。…………咲穂は?」


「寝てるよ?」


「……じゃあ咲夜と風呂入ってから飯食う」


「了解っ! じゃあ準備するね〜!」









 お風呂で汗を流してから、流しまくってから、一緒にご飯を食べて一緒の布団に包まる。


 子供の頃から何となく一直線上にある日常を、ずっと続いてきた毎日を、飽きることなく謳歌する。


 いつでも隣に居て、気づいたら二人増えていて、お隣さんだった距離が今は体温が分かるくらいまで近くて、友達から親友になって、恋人になって家族になって、でも役割は変わっても昔からそこには変わらないものがあって、それが幸せで。


「ねぇ、ヒロ」


「ん?」


「明日で10周年だね」


「そうだなー、長いなー。飽きた?」


「全然前世」


「もう意味わかんねーじゃん」


「大好き、これからも、ずっと」


「ん、俺も。介護はよろしくな」


「頑張って老後用の2000万円貯めてよね官僚さん」


「……善処するよ」


「まあ無くっても一緒に生きてあげるよ」


「そりゃどうも、おやすみ。愛してる」


「おやすみ。大好き」



 ぎゅーっとヒロにしがみついて、そのまま深い眠りに落ちていく。ふわふわと、ふわふわと。











 チュンチュン チュンチュン


 小鳥の独唱(ソロ)で目が覚める。


 んー、はっ!!!


 ドアの音がまだしてない!!


 フル回転で脳みそを叩き起こし玄関へダッシュ。


 スーツ姿でビシッと決めたヒロが黒い革靴を履いているところだ。



「ヒロ! おはよ!!」


「お、目が覚めたんだ」


「うん! 結婚10周年おめでと!! 大好き!!!」


「今日は豪華なディナーでも期待しとこうかな」


「任せて!」


「じゃ、行ってくる」



 ちゅ


 行ってきますのキス。


 大学生の頃とは逆の関係。




「行ってらっしゃい!」





 家を守るのが主婦の仕事。(ヒロ)を一番の笑顔で見送るのが私の使命。





 月一しか出来ないけどね!





またお会いしましょう

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