第2 壮大な内輪ウケになる理由
皆さんはこんな経験ありませんか?
テレビでブレイクしている一発ネタ系お笑い芸人。みんなで一緒に、会場やテレビで見ているうちはゲラゲラ笑って面白いって思います。
でも、いざ1人で動画サイトやテレビで見ていると、あれれ? 大して面白くないぞ。なんであの時笑っていたんだ?
こんなことが起こるのは、確かに「独り身の寂しい生活」という環境のせいもあるでしょう。僕も彼女欲しいです。
でも今回はそこではなく、もう1つの見解を示していきます。
それは、「雰囲気」です。
一発ネタ系の芸人さんの会場で笑えてしまうのは、「周りの人が笑っている」という、いわば「笑える雰囲気がある」というのが理由でもあるのです。ネタが面白いというより雰囲気で無意識に楽しんでいるわけですね。
早速用語が出てきますが。人の心理には「同調」という物があります。
同調とは、簡潔に書くと「周りの人に合わせようとする心理」です。法律や暗黙のルールを守る、黒いスーツを選ぶ、行列店に行きたくなる、それらも同調の一種と言われてますね。
この同調はくせ者で、時に人の考え方さえ歪めてしまうのです。
『悪の組織を構成している人々の多くは元々善良な市民だっただろう』
とある野球ゲームでこんな感じの名言がありましたが、まさにこれは心理学的に正しいというわけですね。
さて、同調と雰囲気について話したところで本題ですが。
まず第1に。なろうでは、特有の雰囲気があります。
それは、度々話に上がる「テンプレ」です。特にランキングにおいてはテンプレ至上主義な所があり、テンプレでなければ勝ちあがれないというのが常識になっています。
そして変なことに、テンプレであれば多少文章やストーリーが稚拙でも勝ち上がれるのですね。(´・ω・`)で表現するような物でもランキング上位にあったりします。
いえいえ、テンプレが悪いわけではありませんよ。あくまで見解の提示ですから。
とにかくなろうには「テンプレであればもう稚拙でもいい」という雰囲気があるというわけです。無意識レベルかどうかはわかりませんが。
しかしそれだとテンプレでも内容稚拙だから評価されない奴との矛盾が生まれますよね。じゃあそれについてどう説明するんだよ、と。
ここからが「同調」のお話です。
なろうでは「ポイント」や「PV」を読者も見ることができます。それはつまり「どれだけ多くの人が作品を評価しているか」というのを知ることができるということです。
そして「多くの人が評価している」となると、「つまらない」と思ってもそれが搔き消えるわけですね。「俺にはわからんかった」とか「あー、評価見たら面白いと思えてきた」とか。先ほど書いた、「同調が考え方さえ変えてしまった」という例です。
こうなってくると、ポイントも1:1を入れる可能性は低くなります。人と合わせようとするからですね。逆に高ポイントや無難な3:3などを入れたりすることもままあります。
これがランキングになると、もっとすごい。ランキング上位は100パーセント高ポイントですから、つまりそれだけ多くが支持している。同調は数が多くなればなるほど強くなりますから、必然的に「良い評価を付けようサイクル」が発生します。
高いポイントをもらっている→つまり評価されている→俺はつまらないと思ってるけど、それは俺だけで本当はこの作品は面白いんじゃないのか?→なんかみんなと違うの嫌だな→よし、無難なポイントにしとこう。感想も無難に→別の人が見る→高いポイントをもらっている→私は面白くなかったけど(以下略)
こんな風に。
こうなると、「俺はつまらないと思ったけど」から「作品の内容」ではなく「他の要因」で評価を変えたわけですから、「自分の感想や評価」ができなくなってるわけですね。それにホラ、正直に感想へ「つまらなかった」って書くと、下手したら総批判に遭いますから。人は人と違う人を差別しますからね。
つらつら書きましたが、これが「壮大な内輪ウケになる理由」です。
この、「なろうだけの雰囲気」が「なろうだけでウケる」状態を作ってるのです。世間全体が「なろうだけの雰囲気」に染まれば、おそらくランキング上位の作品は全て名作になるでしょう。通常なら打ち切られる作品でさえも。
世間全体の雰囲気と、なろうだけの雰囲気のギャップ。そして人の当たり前な心理。これらが、なろうだけでウケる「壮大な内輪ウケ」の正体の一部です。
追記
壮大な内輪ウケの問題点は「なろうでウケたけど現実じゃウケない」という部分。これで何が言いたいのかと言いますと、「なろうウケだけを考えてランキング上位ばかり狙っていたら、書籍化しても売れることはないよ」ってことです。要するに、打ち切り。
それで打ち切り食らったら新しい作品を書き始めます。これも「なろうウケのみ狙う」となる。そしたらランキング上位へ行き、書籍化二作目。しかしこれもあえなく打ち切り。また新作書いて……と繰り返します。
こうなってくると、出版社も「あ、この作者は面白くないのばっか書くんや」ってなり、以後ランキング上位でも書籍化しないなんてこともありえます。ちなみにもしそうなるなら「早くて2回目の打ち切り、通常3回目でそうなる」って考えた方がいいです。仏の顔もってわけです。
そこから実力つけてもそろそろキツイ。狼少年な信用されないように、売れないゴミを量産した人はダイヤを作れるようになってもゴミを作ると判断されます。ま、諦めなさいってことです。
だから壮大な内輪ウケは、実は作者にとって一番危険なんですよ。