異暴(いぼ)
ナンツ一等兵は暗闇の中立ちすくんでいた…
目の前に腫瘍だらけの人間の男「だった」化け物がいるからだ。
鼻をつく悪臭…右半身を覆ういぼのような腫瘍…情報部によると知性の類は見られないらしい…
ナンツ一等兵がそう考えていると「ザァン!!」
突然化け物は崩れ落ち髭面で巨漢の男が現れた。
「大丈夫か?ナンツ一等兵、ガハハ」
「お気遣い感謝いたします 少佐殿!」
ナンツ一等兵が返事を返すと同時にもう一人のまるで妖精のようなブーニーハットを被った狙撃手が巨漢の後ろから現れた。
「ガハハっていう笑い声はやめてくださいよ~グロッカス少佐殿
他の皆に移るじゃないですか」
「口答えするな ヘザー少尉 種族特有の物なんだ ガハハ」
そう少佐殿が返すと後ろからまた兵士たちがゾロゾロとやってきた 5.56mm仕様のアサルトライフル 毎分725発発射可能な分隊支援火器 1km先の標的を仕留められるボルトアクション式スナイパーライフルなど近代銃器を所持していた…
しかし分隊員10名全員が人間という訳ではない…
子供のような幼い少年…髭を蓄えた巨漢…まるで絵のような美貌の耳の尖った女性…彼らの分隊はホビット…ドワーフ…エルフと人間で構成されているのである
「これより我ら多種族連邦軍は異暴とよばれるウイルス感染者に対して攻撃を行う!!!
空気感染の類は情報部の情報にないためNBC装備はなしだ!!
皆 故郷や種族は違うだろうが命を張るんだ!!!いいな!!!」
グロッカス少佐が声を張り上げると「hooah!!!」分隊員全員がかけ声をあげた。
「鼻のきくナンツ一等兵を中心に索敵陣形を維持する!
ナンツ一等兵やってくれるな?」
「はぁっ!少佐殿!光栄であります!」
分隊ではホビット族唯一であるナンツ一等兵は言葉では快諾したが心の中では嫌でたまらなかった
あの化け物と戦うのが嫌なのだ
近くの大通りにはドワーフ騎行部隊の戦車と歩兵先頭車が集結しているし街中の高い建物には闇に紛れてエルフのスカウトスナイパーが付近の部隊に援護射撃を行っているがナンツ一等兵の分隊がいる大通りの離れの路地には援護が来ないだろう…
第一にナンツ一等兵が先頭なので他の分隊員の支援も期待できない…
10才(ホビット族の平均寿命は50才)で軍に入隊し今回の任務が初任務であるナンツ一等兵は震えが止まらなかった…
「NV起動!我が分隊は夜間戦闘に移る!」
グロッカス少佐がそう言うと分隊員はヘルメットからナイトビジョンアームをおろし索敵陣形をとった
ナンツ一等兵の恐怖の夜は始まったばかりである…