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序章5

 オーブと話をして二日経った日の真夜中。どうにも外が騒がしく、夜だというのに窓の外が明るい。窓の外を見ると教会が燃えている。

 「リツ。早く逃げろ。見たこともない数の魔物が森から出てきおった」

 トナネグが下から叫ぶ。あわててオーブをつかみ階段を駆け下りると、彼はもう身支度を終えていた。

 「どこへいくんですか」

 自警団の帽子をかぶり、猟銃を持った彼に対してかける言葉ではなかったかもしれない。しかし彼はやさしく、団長として行かねばなと言った。

 「律は教会と反対に走れ。そっちにはセテが居るから大丈夫だろう。これも持ってお行き」

 そう言って短剣を手渡すと、ぎゅっと律を抱きしめて出て行った。寝起きの頭ではついていけないほどの怒涛の展開。ぼうっとしそうになる律をオーブがぐいぐいと引っ張る。

 「律、トナネグが言うように逃げるんダ」

 引っ張るオーブを抱え上げて、言われたとおりに走る。律以外にも走っている人はいて、その人たちとセテが居るはずの方へ向かって逃げた。


 「リツ」

 走っていると呼び止められた。逃げるうちにどんどん人は増えていったのによく見つけられたものだ。ほっとしてセテの方に駆け寄る。

 「良かった、探してたんだよ」

 セテも安心したように笑っている。しかし次の瞬間、左の脇腹に鋭い痛みが走った。膝から力が抜けその場に倒れる。

 「君のせいで森は魔物だらけになった。君のせいで今こんな目にあっている。君が魔王を倒すものだったんだね、今でも信じられないよ」

 「セテさん、なんで……」

 痛む脇腹を抑え蹲ったままの律に、彼はいつもと変わらない笑顔を見せた。

 「この前ある人に聞いたんだ、君のせいだってこと。嘘だと思ったけど、君は人形と剣について語ってた。これはもう有罪だろう」

 セテが剣を握りなおす。必死で逃げる周りの人たちは気づいてくれない。痛みと恐怖で動けない律は、振り下ろされる剣の前で目を閉じた。

 「……?」

 想像された痛みはなかった。薄目を開けて周りを見ると、人型になったオーブがセテを抑えている。

 「今のかりそめの平和の方ガ、勇者がもたらす真の平和より良いとオマエは思うのカ?」

 突然現れた少年に強い力で抑えられ、セテの瞳は驚きに見開かれる。ぎりぎりとセテの手首をオーブが強い力で握りしめる。痛みに唇をかみしめるも、セテは剣を離さず律を睨んでいた。

 「彼女を殺せば終わる。大人しくしていれば何もされないんだ。部外者は黙ってろ」

 叫び暴れるセテを見る律は、彼の言葉に元の世界の自分を見た。

 (いい子でいれば誰も私を見捨てない。期待に応えれば必要とされる。それでいいと思ってた)

 足に力を込め、ふらふらと立ち上がる。

 「エレイン、来て!」

 「なあに、律」

 水の球体が突如現れて湖の乙女が顔を出した。彼女は律の瞳を見ると、頷いてその背を差し出した。律が柄に手をかける。

 「私ここに来て気づいたの。自分から動かないと何も変わらないってこと」

 あの日抜けなかった剣が、ずるずると乙女の体から離れていく。

 「私の望みをかなえるために、私は行動する」

 きれいさっぱり抜けた剣は、乙女に刺さっていた時のような大剣ではなくなっていた。真っ赤な柄の日本刀。驚く律にエレイン使い手によって形が変わることを伝える。

 「さあ律、まずは何をするの」

 「決まってる。みんなを守るために魔物を排除する。トナネグさんのところへ行くわ」

 力強く歩こうとした律をエレインが支える。血がしたたり落ちる傷口に手を当てて何事か唱えると、傷はすっかりふさがった。

 「その体では危ないわ。手伝いましょう」

 「ありがとうエレイン。いくわよポンコツ」

 そう言って律は駆け出した。


 来た道を駆け戻る。途中に出会う魔物を切り、逃げ遅れた人を助けて進む。近づくにつれて小さな町は火の海になっていた。

 「道を開けるから先にお行きなさい」

 家の井戸からも水車小屋からも水がほとばしり、エレインが炎を押し流していく。彼女が作った道を残る二人は走っていく。そうして道々に出会った魔物よりも大きな、火を吐く熊型の魔物を見つけた。周りには自警団の人々の死体が無残にも転がっている。トナネグの姿を見つけ駆け寄るが、もうすでに息をしていなかった。

 「おまえ、よくも」

 律の瞳が怒りに燃え上がり、魔物をにらみつける。

 「律、あれの弱点は額の印ダ。けがしても治してやるから突っ込メ」

 オーブに背中を押され対峙する。目をそらすことなく刀を構える。ここでの鍛錬は剣で、日本刀など扱ったこともないのに律はどう体を動かせばいいか分かった。魔物と視線が交わり、火を噴かれると同時によけて走る。律の体は高く飛んで、一撃で額の印を打ち抜いた。


 炎はあらかたエレインが消し止め、息のあった人をオーブが治療した。律は静かに涙をこぼしながらトナネグの墓を掘っていた。

 そうしていると逃げていた人々が口々に律をののしりながら帰ってきた。どうやらセテがあることないことを言いふらしたようだ。四方八方から責められる律は、ぐるりと周りを見渡して頭を下げた。

 「皆さんお世話になりました。このようなことになってしまって申し訳ありません。すぐにここを出ていきます」

 真剣に謝る律の背に何かが当たった。それが呼び水となったのか、怒号と石が宙を飛ぶ。

 「出ていけ!」

 「消え失せろ!」

 いまだ頭を下げたままの律の体をオーブがかばうが、徐々に打撲と切り傷が増えていく。すると水の膜が二人を覆った。

 「旅立ちの時間よ、律。気を付けて」

 エレインのこの言葉を最後に、水の向こうの景色は歪み、水は新たな地へと二人を飛ばした。



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