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終章

「二人ともお疲れさま」

「ほんと疲れたわ。エレインって精霊、強すぎるでしょ」

「リツちゃんもお疲れさま」

疲労の色を隠さないアルクと無理をして笑顔を浮かべるウィルは対照的だ。そしてどちらの反応も二人のいいところなのだ。

「改めてお礼を言わせてください。ここまで付いてきてくれて、ありがとうございました」

律は深くお辞儀をする。起き上がってみた二人の顔は、少し寂しそうだった。それでも続けて、律は元の世界に帰ることを伝える。

「なんだか嫌だな。達成感を味わう暇もなくお別れなんて」

ぽつりとウィルが言った。仕方がないと言い聞かせても、零れ落ちてきた言葉のようだ。

「こっちに残る選択肢はないの?」

「すみません……」

アルクが律に布を差し出した。どうやら涙が出ているようだ。受け取って涙をぬぐっても、布はどんどん湿っていく。

「そんなに泣くのにダメなの?」

律はうなずく。

「皆のことは大好き。でも、私が帰る場所はあの家なの」

「リツちゃんにとって辛い所なんでしょう。それでも戻るの? 僕もリツちゃんが好きだから、うちに来たら」

律は首を振った。

「私は、私の現実を変えるって決めた。だから家に帰るの」

涙は止まった。真っすぐ二人の目を見て律は言う。

「気持ちは嬉しい。ありがとうウィル君」

微笑む律に合わせて、ウィルも笑みを浮かべる。決意は固そうだとアルクも受け入れた。

「リツ」

後ろから声をかけたのはエレインだった。元の関係に戻った玲、ディナ、ハシスも律を見つめている。

「代表して僕がお礼を言うよ。ありがとう。君が勇者でなかったら、僕たちはまた話すこともできなかった。僕たちはこの世界を新たに作り変えるよ」

「お互い頑張りましょうね、リツ」

玲とは握手を、ディナとは抱擁をして別れる。ハシスは律に手を出すように言い、差し出された手のひらにリングを置いた。首から下げられるよう細い鎖もついている。

「ウィルが作って私が仕上げた。いつでも君の背中を押してくれるよ」

律はハシスを見上げ、次いでウィルを見つめた。温かい気持ちがあふれてくる。その気持ちのままウィルに抱き着いて、お礼を言って、ゆっくりと二人は離れた。

「皆さんお世話になりました」

深く深くお辞儀をしてから律はオーブの方へ歩く。後ろにいる大切な人たちのことは振り返らない。

「いいのカ」

「うん」

頷くのと同時にサーチライトのような鋭い光が眼前に広がる。反射的に目を閉じると、ぐるりと体が回転した。

光が収まって目を開けると、そこは律の部屋だった。元の世界の、あの両親と住んでいる家の、律の部屋だった。だが掛け時計の秒針が動いていない。

「連れて行った時の時間に戻って来がどうすル? 望みを叶えるためにもう一度別の世界に行くカ?」

「大丈夫よ。もう望みはかなったもの。私を大切に思ってくれる人を得て、私は勇気を持つことができた」

「もう大丈夫カ?」

不安そうなオーブに向かって大きくうなずく。

「あなたにもお礼を言うわ、オーブ。助けてくれてありがとう」

「なんだ覚えてたのカ」

「当然よ。ちょっと引っ込みがつかなくなってたの」

恥ずかしそうにしている律に微笑んで、悪魔は人の姿から元の小さな姿に戻った。

「元気でナ」

小さな体が窓ガラスを抜けた瞬間、時が刻まれ始めた。秒針の音が静かな部屋に響く。

律は手の中のリングを机に置いた。カーテンを開けたまま電気を消してベッドに横になる。月に照らされ柔らかく光るリングを見つめると、明日やりたいことが次々と浮かんできた。


初投稿から長い時間がかかったものの完結させることができました。当初の予定と違ったところに話は飛び、まとめるのも下手でしたが書き切れてよかったです。最後まで読んでくださった方々には感謝の気持ちしかありません。これからも精進していきます。ありがとうございました。

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