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第二章7

 真っ赤な夕日に照らされて、山の斜面が燃えている。この山に鎮められている精霊に認めてもらうことがこの儀式の内容だ。認めてもらうといっても本来なら挨拶だけで済むものだが、ウィルは精霊の加護を受けることを目的としていた。

 「行ってまいります」

 陽が完全に落ちてあたりの気配が暗くなったころ、ウィルは山道へと歩みを進めた。白い衣を着て、明かりも持たずに進んでいく。しばらくはちらちらと見えていた白もやがて見えなくなり、辺りは静寂に包まれる。律だけでなく、国王夫妻も兵士や魔法使いだっているのに、風の音すらしない。

 律は不安だった。ウィルのことが心配だった。自分が知る精霊はエレインだけだ、ここの精霊は彼女のように好意的なのだろうか。

 「律、立ったままでいる必要はなイ」

 オーブが椅子を勧めてくる。儀式は長ければ一晩中続くらしく、皆座っている。

 「いいえ。とても動けないわ」

 律はウィルが歩いて行った道から目をそらすことなく答えた。オーブは彼女に合わせて隣に立ち、同じように道を見つめた。



 星の明かりがわずかに届く暗い森を、ウィルは祠に向かって歩いていた。無心に祈りながら足を進める。

 儀式でありながら杖は持っていなかった。どんな人間を気に入るかは精霊によるが、加護を求めるのに攻撃手段になりうるものは持たない方がいいと思ったからだ。

 ボウッと右前方の木が燃えた。めらめらと深紅の炎を上げている。ウィルが驚いていると次々に木々が燃え、今歩いている道とは別の方向を示した。ウィルはわずかな迷いも見せずに炎が指し示す方へと足を向ける。歩いて行くと大きな穴の開いた場所へ着いた。

 「よう」

 ちらちらと赤が見える穴の底から声が響いた。若い男の声だった。ウィルは膝をつき手を前に持ってきて最敬礼をする。

 「この山にお住いのあなた様に願うことあり、ウィル=ブラン・メルリンが参りました」

 「ほう。いつもの挨拶ではないのだな」

 男の声はからかうような響きを持っていた。

 「さて、お前の望みをどうしようか。お前は変わったようにも見えるが一時的かもしれん。以前は俺の好みにほど遠かったのだが……」

 思案するそぶりを見せるが、その声はあまり好意的ではなかった。ウィルは静かにその声を受け止める。

 「勇者が理由なのも嫌だなぁ。あれは水の性だし」

 言葉が切れた。ウィルにとっては長い間だった。

 「お前が耐えられたらいい。中を見せてみろ」

 ウィルを囲むように至近距離に火柱が上がる。驚いて顔を上げると、穴の底から吹出した炎がウィルの胸へと飛び込んだ。

 「~~っ」

 体の内側が灼けるように熱く声が出せない。思わず前のめりに倒れてしまう。ぐるぐると踊るように見える火柱をかすかに開いた目に写しながら、ウィルは意識を手放した。


 ウィルは、はっとして目を開き慌てて起き上がる。あの皮膚がただれるような感覚は失われていて、同時に穴の底に見えた赤が消えている。失敗。この言葉がよぎるが、胸の内に暖かいものが渦巻く感覚に気が付いた。

 「お前は自分で、俺をお前の内に留めたよ」

 強い奴は好きさ、と言った声は内側から響いてきた。驚いて開いていた口から、ふわりと火の玉が飛び出してウィルの目の前に浮かぶ。

 「あなたのお名前を教えていただいてもいいですか」

 空中に静止した炎を見つめて問いかける。炎は青年の姿を取ってウィルの前に立った。

 「名はエイデン。俺はお前の呼ぶところどこへでも姿を現し、いついかなる時もお前を助ける」

 メルリン国の外でも、水気にあふれた場所でも、何の制限もなく守るとエイデンは言った。それが加護というものだと。

 「あの女に早く伝えに行け。お前の望みだろ」

 少し前の初対面とは打って変わった優しい声音だ。

 「ありがとうございます」

 ウィルは深々と頭を下げて、エイデンが示す最短距離を下って行った。



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