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第二章4

 「ここは王城の一室で私に与えられた部屋なのです」

 律があたりを見回しながら視線をさまよわせていると、シルベがそう説明しながら三人に椅子を進めてきた。腰かけるとノックの音がして、使用人がお茶を運んできた。

 「貴女様が来て下さったことは王にも伝わっております。一息つかれましたら、謁見の間に行きましょう」

 シルベは部屋の中を歩き回って着替えながらそう声をかけた。オーブは口をつけなかったが、律とアルクはせっかくなのでお茶をいただく。

 「この国の人たちはみんな先ほどのようなことができるのですか?」

 自分たちを連れてきた方法を思い出しながら律は尋ねた。地図上ではかなりの距離があったのに、あんなにも一瞬で移動できるとは便利な方法もあったものだ。

 「あの転送陣は熟練した魔法使いが複数必要ですがね。国民は皆大なり小なり魔法が使えますし、資質のあるものは他国からも学院にやってくるのです。土地も良いですから」

 分かったような分からないような言葉もあったが、ここはまさしく魔法国家であるらしい。二人がお茶を飲み終えると、シルベに促され部屋を後にした。

 長い廊下を何度も曲がって、シルベに案内された三人は広い部屋にたどり着いた。部屋の中には厳格さと有無を言わせない強さを感じさせる王と、やつれてはいるが包み込むような微笑みを浮かべた王妃が座っていた。

 「勇者よ、無理を言って悪かった。しかし、ウィルは、王子は私のただ一人の息子だ。どうか助けてやってほしい。わが国唯一の占見者によれば、そなたが鍵であるらしいのだ」

 いつもであれば重々しく響くのであろう声は弱く聞こえ、眉間には深いしわが刻まれていた。王の言葉を聞いてオーブが息をのんだ。

 「占見者はオマエの世界の占い師とかとは違ウ。未来を断片的にだが見ることができる希少な人間ダ。まだいたとはナ」

 頭に疑問符を浮かべていた律にそう説明する。占術者よりよほど信頼できる存在であるとも付け加えた。

 「俺たちに魔法の心得はないガ、それでも助けられる未来が見えたんだナ?」

 オーブの質問に王は首を振った。

 「助けられる未来が見えたわけではない。ただ、魔法では何もできないと分かったのだ。魔法以外の力が必要で、それは勇者が鍵になっているということだった」

 王は絞り出すように声を発した。オーブの目が細められ、律の方を見上げてどうするか、と問いかけた。

 「どのような結果が出るかわかりませんが、王子に会わせていただけますか」

 律は王と王妃の目を交互に見ながら申し出た。心のなかは不安でいっぱいだったが、自分にしかできないかもしれないというのなら頑張るしかないと思った。

 「シルベ、案内は頼んだぞ」

 シルベに続いて謁見の間を辞そうと律が後ろを向くと、王妃が椅子から立ち上がって近づいてきた。

 「あの子のこと、どうかお願いします」

 律の手を握り頭を下げる。はい、と言って律が小さくうなずくと、ゆっくりと手が離された。二人のすがるような視線を背中に受けて、律たちは退出した。


 「何で王様たちは一緒に来ないの?」

 最後尾を歩きながら、アルクがシルベに問いかけた。シルベは速度を落とすことなく歩き続けるので、その表情をうかがうことはできない。

 「お二人は王子のお部屋に近づけないのですよ。なぜか弾かれてしまって」

 「それはお辛いでしょうね」

 答えを聞いた律は目を伏せる。あの苦しげな顔を思い出してそういった。同時に自分の両親の顔が思い浮かんだが、彼らならきっと気に掛けることすらしないだろう。小学校に上がったばかりのころに誘拐されたが、泣きながら戻ってきた自分に対して彼らはオマエに隙があったのだと責めた。傷の入った玉には価値がないのだから油断するなとも言われた。

 「こちらです」

 今まで思い出しもしなかった両親のことを考えていると、あっという間についてしまった。扉の前には兵士が二人控えている。そのまま部屋に入ると奥にベッドが一つあり、陶器のように白い肌の、まだ幼い王子が横たわっていた。

 「あら、かわいいわね」

 その形容詞は王子にぴったりだった。柔らかそうな髪も細い体も、まるで女の子のように愛らしい。

 「いたいっ」

 失言をしたアルクの足をオーブが思いきり踏みつけたようだ。

 「どのくらい目覚めないのですか」

 横たわる王子を見つめながら問いかける。

 「もう二か月です」

 それだけの機関が立っているのにまったく痩せてはおらず、すぐにでも目覚めそうな赤いほほをしている。律がゆっくりと王子のほほに手をあてると、血が通っていることが良く分かった。

 律が手を放そうとすると、強い光が腰の刀から発せられた。室内にいる全員がとっさに目をつぶった。

 皆が恐る恐る目を開け始めたとき、律だけは閉じたままだった。彼女は王子に覆いかぶさるようにして意識を失っていた。


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