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第二章3

 さて、お金という最大の壁にぶち当たった夜から6日が過ぎた。オーブの魔法で保管しているお金も換金前の資源もだいぶ貯まってきた。三人は活動場所を変えながら毎日森へ行っていたが、そろそろこの辺りは行きつくしてしまった。

 「カロンの港へ向かいながら採取するほうに変えませんか。取りすぎてしまいそうです」

 いつもより遅い朝食を食べながら、律は二人に提案した。

 「まあ確かにね。あたしはリツに賛成」

 「俺は律に反対しなイ」

 三人の意見が一致したので、朝食を終えるとすぐに宿を引き払った。街を出て港へ向かって街道を歩いていると、突然フードをかぶった十数人の人間が目の前に音もなく表れた。

 オーブが律の前に出て、アルクも弓をもって身構える。律も心を引き締めて、しかし警戒していることが悟られないように発言した。

 「初めまして。どういったご用件でしょうか」

 柔らかく問いかけると、フードをかぶった集団の中から一人が進み出る。そして、その人を含めた全員が膝をついて頭を下げた。いきなりのことに三人が驚いていると、先ほど進み出た人がフードをとって顔を見せてから話し始めた。

 「驚かせてしまい申し訳ありません。あなたが勇者様ですね。お探ししておりました」

 フードの下には、多くの経験を積んできたと思われる初老の男性の顔があった。彼が勇者という単語を出したことで、魔王の配下ではないかと三人に緊張が走る。

 「まだ名乗っておりませんでしたね。私はメルリン国の筆頭魔法使いシルベと申します。後ろにいるのは私の弟子たちです。本日は勇者様にお願いがあってまいりました」

 張りつめた空気を感じたからか、筆頭魔法使いと名乗る男は穏やかに言葉を紡いだ。唇を湿らせて律が口を開ける。

 「勇者だなんて、どなたかとお間違えではないですか」

 男から目をそらさず尋ねた。オーブとアルクも警戒して、男の後ろにいる連中をじっと見ている。

 「貴女様が腰に下げている剣はこちらでは見たことがない形ですし、貴女様には水の加護

が与えられている。複数いる湖の乙女の中でも、剣の守護者であるエレインの加護がね」

 「なぜ、そのようなことが分かるんですか?」

 エレインの名前が出されたことで、どうやら隠すことはできなさそうだと律は思った。そして疑問が口をついて出た。

 「魔法使いは人以外の力を借りることが多いですから」

 魔法使いなら分かって当たり前だというように、シルベはさらりと言った。

「さて勇者様、お願いというのはメルリン国の王子をお救いしてほしいというものです。王子はある儀式に失敗し、眠りから覚めなくなってしまいました。私たちも手を尽くしましたがどうにもならず、そうしているうちに新しい勇者様があらわれたと星に出たのです」

王子のことを話すとき、彼らには憔悴と無力感が感じられた。嘘は言っていないようだが、自分に何ができるのかと律が考えていると、オーブが口をはさんだ。

「そんなもの勇者がどうにかできるものではないだろウ。魔法国家ならば自分たちでどうにかするがいイ」

きつい口調で言いながら、手で追い払う仕草をする。律もまた、自分に目覚めさせることができるとは思えないと伝えた。

「しかし占いに出たのです。貴女様にしかできないと」

「はぁ」

すがるように言われても、生返事しか返せなかった。この世界の勇者の扱いがよくわかっていないが、都合のいいように思われているのではないだろうか。

「お願いします。どうか王子を助けてください」

道の真ん中で大勢に頭を下げられるという状況に、律は困惑していた。周りに他の人がいないことに律はほっとしていた。しかし、いつまでも頭を下げられていては前に進めない。

「リツ、あんたはどうしたい?」

これまで黙っていたアルクが声をかけた。

「どうって、助けられるものなら力を貸したいけど……」

「急ぐ旅ではあるけどさ、あたしが小さいころに聞いた話だと勇者は何でもできたらしいよ」

言葉を濁す律にアルクは昔聞いた話を教えてくれた。曰くその剣で断ち切れないものはなかったらしい。

「おとぎ話によくある誇張ではないでしょうか」

アルクの言葉に対してもっともな反論をすると、彼女は律の耳元でささやいた。

「でも、おとぎ話は事実をもとにしてるっていうし? それに、このまま見捨てて行って、あんた元の場所へ帰る時気分いいの?」

 律はうつむいて、鞄から取り出した地図を見ながら考える。メルリン国は港と逆方向で、魔王城に着くのが遅くなってしまう。でも、この人たちの必死さが律にはよく伝わってきた。

 「何もできないかもしれませんけど、できるだけのお手伝いをさせてください」

 律がこういうと、シルベたちは目に見えて喜んだ。頭を地面にこすり付けて、涙を流して感謝している。

 「安請け合いしてよかったのカ」

 振り返ったオーブは律に問いかけた。

 「うん。この世界には後悔を残していきたくないから」

 「わかっタ。おいオマエたちどうやってつれて行く気ダ?」

 前に向き直って声を張り上げる。喜びで騒いでいた彼らが一気に静まった。

 「我々の転送陣でお連れします。こちらにおいでください」

 後ろにいた弟子の人たちが懐から紙を取り出し、地面において絵を描いていく。その絵の真ん中にある円に律たち三人とシルベが立つと、弟子たちは低く言葉を唱えだした。すると一瞬体が浮いて、着地した時には絨毯の敷かれた部屋の中にいた。


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