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序章1

 「会長、プログラムはどうすればいいんでしょうか」

 「神楽坂さん、これ資料室に運ぶの手伝ってくれる」

 「りっちゃん、グループ学習一緒にやろー」

 指示を仰ぐばかりの生徒会役員、雑用ばかり頼んでくる先生方、自分が楽をするために利用しようとする自称友達の面々。そんな風に思う心を押し殺して、神楽坂律はしとやかな微笑みを浮かべてすべてを引き受けた。

 眉目秀麗、文武両道、そして料理も裁縫も得意な生徒会長様は、恐ろしく厳格な両親によって作られた。完璧な外面を保つための努力が惜しまれることはないが、彼女には一つ憧れていることがあった。

 「嗚呼、桐山くんかっこいいなぁ」

 寝る前にこっそり読む少女マンガは、毎日学校とお稽古ごとを分刻みで過ごす律の至福の時間である。少女マンガのような恋をしてみたい。それが彼女の唯一の願いであった。

 そうはいっても律にそんな時間はないし、クールビューティなどと称される彼女に寄ってくる男子生徒もいない。こっそりと憧れる事だけが今の彼女にできることである。

 そう、憧れるだけだと思っていた。昨日までは。律は読んでいたマンガを隠し、薄汚れた小瓶を整頓された机の上に置く。中には何も入っていないが、昨日はここにある生物が閉じこめられていた。

 《十字路の悪魔》それが通称だとその生物は言った。本来ならばタマシイと引き換えに願いを一つ叶えるのだが、小瓶から解放してくれたお礼に代償なしで願いを叶えてやろうとも言った。律はためらいなく、少女マンガのような恋がしたいと悪魔に告げた。悪魔は頷くと、明日の午前0時にその願いは叶うと言って消えてしまった。

 「やっぱり白昼夢だったのかな」

 部屋の時計は午前0時を指しているがなにも起こらない。

 「そうよね。そんなファンタジーみたいなことが起こるわけないもの」

 律は落胆した様子で部屋の電気を消し、窓際のベッドへと向かう。カーテンを閉めようと手を伸ばしたとき、すぐ後ろで人ではないものの声がした。

「何言ってるんだヨ。オマエの願い叶えたゾ」

 その言葉に振り返った瞬間、サーチライトのような鋭い光が放たれ律は目をつぶった。彼女が最後にみたのは真っ黒な少年の三日月を描く口元だけだった。


「会長、プログラムはどうすればいいんでしょうか」

 「神楽坂さん、これ資料室に運ぶの手伝ってくれる」

 「りっちゃん、グループ学習一緒にやろー」

 指示を仰ぐばかりの生徒会役員、雑用ばかり頼んでくる先生方、自分が楽をするために利用しようとする自称友達の面々。そんな風に思う心を押し殺して、神楽坂律はしとやかな微笑みを浮かべてすべてを引き受けた。

 眉目秀麗、文武両道、そして料理も裁縫も得意な生徒会長様は、恐ろしく厳格な両親によって作られた。完璧な外面を保つための努力が惜しまれることはないが、彼女には一つ憧れていることがあった。

 「嗚呼、桐山くんかっこいいなぁ」

 寝る前にこっそり読む少女マンガは、毎日学校とお稽古ごとを分刻みで過ごす律の至福の時間である。少女マンガのような恋をしてみたい。それが彼女の唯一の願いであった。

 そうはいっても律にそんな時間はないし、クールビューティなどと称される彼女に寄ってくる男子生徒もいない。こっそりと憧れる事だけが今の彼女にできることである。

 そう、憧れるだけだと思っていた。昨日までは。律は読んでいたマンガを隠し、薄汚れた小瓶を整頓された机の上に置く。中には何も入っていないが、昨日はここにある生物が閉じこめられていた。

 《十字路の悪魔》それが通称だとその生物は言った。本来ならばタマシイと引き換えに願いを一つ叶えるのだが、小瓶から解放してくれたお礼に代償なしで願いを叶えてやろうとも言った。律はためらいなく、少女マンガのような恋がしたいと悪魔に告げた。悪魔は頷くと、明日の午前0時にその願いは叶うと言って消えてしまった。

 「やっぱり白昼夢だったのかな」

 部屋の時計は午前0時を指しているがなにも起こらない。

 「そうよね。そんなファンタジーみたいなことが起こるわけないもの」

 律は落胆した様子で部屋の電気を消し、窓際のベッドへと向かう。カーテンを閉めようと手を伸ばしたとき、すぐ後ろで人ではないものの声がした。

「何言ってるんだヨ。オマエの願い叶えたゾ」

 その言葉に振り返った瞬間、サーチライトのような鋭い光が放たれ律は目をつぶった。彼女が最後にみたのは真っ黒な少年の三日月を描く口元だけだった。



「う……」

 鈍く痛む頭を押さえ、律は起き上がった。顔を上げると視界いっぱいに緑が写る。ぎょっとしてあたりを見回すと、どうやら律は森の中にいるようだった。陽光はさんさんと降り注いでいるものの、人の気配は全く感じられない。

 「全然違うじゃないのよ」

 悪魔が本当に願いをかなえてくれたなら、今頃自分は素敵な男の子と恋愛をしているはずで、この状況はつまり騙されたということ。律はそう結論付けて、これからどうしたものかと考える。不意に遠くから獣の鳴き声が聞こえて、恐ろしさに体をはねさせる。恐る恐る振り返って目を凝らしてみるものの、森は深く出口は見えない。

 とりあえず人を探そうと律は意を決して立ち上がる。無意識に服の裾を握っていた。ここで律は自分が寝る前に来ていたパジャマではなく、飾り気のないブラウスとスカートを身に着けていることに気が付いた。どちらも自分のものではない。これは夢か現実なのか、何もわからないまま律は歩き始めた。


 「誰かいませんかー」

 もう日はとっくに暮れ、フクロウの鳴き声も聞こえてくる。出口に近づいているのかもわからないまま、それでも律は人を求めて歩いていた。不意に吹いた冷たい風に心をくじかれて、律はその場に座り込む。空腹でお腹もなった。体育座りをして顔を俯かせている律の肩が少し震えている。

 どれくらいの時間がたったのか、急に物音が聞こえた。がさがさと茂みが揺れる音はそう遠くないところから聞こえてくる。人だろうか獣だろうか。叫ぶのはいいのか悪いのか。どちらに決めることもできず、律はただ固まって音のする方を見ていることしかできなかった。

 突然目の前の茂みが割れ、ぬっと大きな体が姿を現した。

 「~~っ」

 律は思わず叫びそうになったが、明かりに照らされた姿を見てあわてて口元を抑えた。

 「お嬢ちゃん、大丈夫かい。怖がらせてすまないね。ワシはトナネグというもんだ」

 驚かせることの無いようにゆっくりと声をかけてくる。トナネグと名乗ったこの初老の男性は、なんだか熊に似ていた。彼の姿を見て、声を聞いて、律の目からは涙があふれ出す。決して怖いからではない。安心したのだ。

 泣き出した律を見てトナネグは一瞬ためらったものの、明かりを地面において彼女を抱きしめた。

 「怖かったなぁ」

 優しく落ち着かせるように背中を撫でる。その行為に本当に安堵して、律は彼の肩に顔を預けしばらく泣き続けた。



つたない所ばかりだと思いますが、よろしくお願いします。

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