表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約破棄された令嬢、辺境で「半分を見捨てる決断」をする 〜全員を救えない世界で、彼女は最善を選ぶ〜  作者: 結城ヒナ


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

30/30

第30話 選ぶということ

 その報告は、夕方に届いた。


 現場から戻った直後。


 カインが呼ばれる。


 珍しく、表情が変わる。


 私はそれを見逃さない。


「……何があった」


「来い」


 短い返答。


 私は従う。


 建物の中。


 そこにいたのは、見慣れない男。


 整った服装。


 無駄のない姿勢。


 ——外側の人間。


「遅いな」


 男が言う。


 視線が、こちらに向く。


 測るように。


「エレノア・ヴァルディス」


 私は名乗る。


「今回の責任者」


「ローレン・ディグレイだ」


 男は言う。


「領主代理」


 理解する。


 この問題は。


 現場の外にある。


「要件は」


「食糧が足りない」


 短い。


 だが。


 十分だった。


 私は思考する。


 収穫量。


 備蓄。


 消費。


 そして。


 結論。


 ——足りない。


「どの程度」


「半分だ」


 ローレンは言う。


「そのままなら、半分は死ぬ」


 沈黙。


 私はそれを受け取る。


 逃げない。


「対策は」


 問われる。


 私は一瞬、考える。


 そして。


 言う。


「三つある」


 ローレンがわずかに笑う。


「聞こう」


「配分の最適化」


 まず一つ。


「消費を抑える」


 当然。


「外部調達」


 二つ目。


「ただし高コスト」


 そして。


 三つ目。


 一瞬、止まる。


 だが。


 言う。


「選別」


 空気が止まる。


「優先順位を設定する」


 続ける。


「全員は救えない」


 その言葉。


 重く落ちる。


 ローレンは頷く。


「正しい」


 評価。


 だが。


 私は、止まる。


 胸の奥で。


 あの感覚が、動く。


 強く。


 これまでで一番。


 私は、目を閉じる。


 一瞬だけ。


 そして。


 開く。


「だが」


 言う。


 ローレンが視線を上げる。


「それだけでは不十分」


 続ける。


「理由を述べろ」


「選別は、最適解だ」


 私は言う。


「だが、それは“結果”でしかない」


 ローレンは黙る。


「現場は、それだけでは動かない」


 カインが、わずかに視線を向ける。


 マルタの言葉。


 あの時の視線。


 すべてを思い出す。


「人は、納得しなければ従わない」


 私は言う。


「だから」


 一歩、前に出る。


「選ぶ理由を共有する」


 ローレンが眉をわずかに動かす。


「……非効率だな」


「そう」


 私は認める。


「だが必要」


 沈黙。


 そして。


 ローレンが、ゆっくりと笑う。


「面白い」


 短く言う。


「では、やってみろ」


 試されている。


 私は頷く。


 現場に戻る。


 人を集める。


 視線が集まる。


 私はその中に立つ。


 そして。


 言う。


「食糧が足りない」


 ざわめき。


 当然だ。


「全員は救えない」


 静かに。


 はっきりと。


 言う。


 空気が変わる。


 だが。


 逃げない。


「だから、選ぶ」


 続ける。


 視線を、一人一人に向ける。


「だが、それは私だけが決めることではない」


 ざわめきが止まる。


「ここにいる全員で決める」


 その言葉。


 空気が、変わる。


 戸惑い。


 驚き。


 そして。


 考え始める気配。


 私は待つ。


 急がない。


 時間を使う。


 やがて。


 一人が口を開く。


「……子供は優先だ」


 別の声。


「働ける奴も必要だ」


 意見が出る。


 ぶつかる。


 混ざる。


 だが。


 止まらない。


 私はそれを見ている。


 介入しない。


 必要な時だけ、整理する。


 やがて。


 一つの形ができる。


 完全ではない。


 だが。


 納得のある形。


 私はそれを確認する。


 そして。


 頷く。


「これで行く」


 誰も否定しない。


 完全な合意ではない。


 だが。


 ——受け入れられている。


 配分が始まる。


 人が動く。


 混乱はない。


 怒りもある。


 だが。


 崩壊しない。


 私はそれを見る。


 そして。


 理解する。


 ——これは。


 私一人の正しさではない。


 その後。


 数日が過ぎる。


 食糧は減る。


 だが。


 崩壊はしない。


 そして。


 外部からの支援が、遅れて届く。


 ぎりぎりだった。


 だが。


 持ちこたえた。


 私は川の前に立つ。


 最初の日と同じ場所。


 だが。


 違う。


 私は、目を閉じる。


 そして。


 思う。


 ——私は。


 正しくなかった。


 ——だが。


 間違いでもなかった。


 ゆっくりと目を開ける。


 水は流れている。


 変わらず。


 だが。


 確かに。


 ここには、続きがある。


 カインが隣に立つ。


「終わったな」


 短く言う。


 私は頷く。


「一つは」


 答える。


 彼は笑う。


「まだやる気か」


 私は考える。


 そして。


 答える。


「やるべきことがある」


 それは。


 命令でも。


 義務でもない。


 私は。


 自分で選んだ。


 その選択。


 それだけが。


 静かに。


 ここに残っていた。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございました。


この物語は「婚約破棄」から始まりましたが、

本当に描きたかったのは、


“正しさとは何か”

“人を救うとはどういうことか”

そして

“選ぶということの重さ”


でした。


主人公エレノアは、最初は「正しいこと」を選ぶ人間でした。

けれど物語の中で、

正しさだけでは誰も救えないこと、

そして時には「誰かを救うために、誰かを救えない」現実に直面します。


この作品には、明確な正解はありません。

エレノアの選択が正しかったのかも、断言はしません。


ただ一つ言えるのは、

彼女は最後まで「自分で選び続けた」ということです。


もし読んでくださった方の中に、

少しでも何かが残ったなら、

この物語は意味を持てたのだと思います。


ここまで付き合っていただき、ありがとうございました。


もしよろしければ、ブックマークや評価などいただけると、

とても励みになります。


また別の物語でお会いできたら嬉しいです。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ