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婚約破棄された令嬢、辺境で「半分を見捨てる決断」をする 〜全員を救えない世界で、彼女は最善を選ぶ〜  作者: 結城ヒナ


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第20話 小さな正解

 翌日、私は少しだけ行動を変えた。


 いつもと同じ時間。

 同じ場所。


 だが。


 ——見る対象を変える。


 私はスコップを手に取りながら、周囲を見る。


 動きではなく。


 人を見る。


 昨日、マルタが言ったことを思い出す。


 ——何を考えているか。

 ——何を怖がっているか。

 ——何を大事にしているか。


 私はそれを意識する。


 完全には理解できない。


 だが。


 試みる。


 作業が始まる。


 同じ工程。


 同じ流れ。


 だが。


 今日は一人、動きが遅い者がいる。


 昨日も見た男。


 土を運ぶ役割。


 だが。


 足取りが不安定。


 動きに無駄が多い。


 私はそれを観察する。


 原因を探る。


 体力不足か。


 違う。


 手の使い方。


 ——左手をかばっている。


 私はそこに注目する。


 よく見る。


 指の動き。


 握り方。


 ——負傷。


 軽度だが。


 影響はある。


 私は判断する。


 この状態では、効率が落ちる。


 だが。


 ここで、以前の自分なら。


 役割を変更する。


 最適配置を行う。


 だが。


 それでは、昨日と同じになる。


 私は一瞬、考える。


 そして。


 行動を変える。


 その男に近づく。


「手を見せて」


 言う。


 彼は驚く。


「は?」


 当然の反応。


 私は続ける。


「負傷している」


 指摘する。


 彼は一瞬、黙る。


 そして。


「……別に大したことねえよ」


 目を逸らす。


 ——隠している。


 理由。


 私は考える。


 評価の低下を恐れている。


 役割を外される可能性。


 それが。


 彼の“怖れていること”。


 私はそれを認識する。


 そして。


 行動を選ぶ。


「ならば」


 私は言う。


「持ち方を変える」


 彼のスコップを軽く指す。


「左手の負担を減らす形にする」


 具体的に。


 彼は戸惑う。


「……そんなことできんのか」


「可能」


 私は手を伸ばす。


「見せて」


 彼は少し迷う。


 だが。


 周囲の視線。


 そして。


 私の態度。


 それを見て。


 ゆっくりと、手を出す。


 私はそれを確認する。


 やはり軽度の腫れ。


 握力が落ちている。


 私はスコップを持つ。


 動きを見せる。


「ここを支点にする」


 角度を変える。


「左手は補助」


 体重を乗せる。


 実演する。


 彼はそれを見る。


 集中して。


 そして。


 同じようにやる。


 最初はぎこちない。


 だが。


 すぐに。


 動きが変わる。


 土が運ばれる。


 昨日より、明らかにスムーズに。


「……あ」


 小さな声。


 驚き。


 私はそれを確認する。


 ——改善。


 周囲の動きも、少し変わる。


 流れが良くなる。


 滞りが減る。


 全体効率が、わずかに上がる。


 私はそれを認識する。


 だが。


 それだけではない。


 男がこちらを見る。


 表情。


 そこにあるのは。


 昨日とは違う。


 ——受け入れ。


 完全ではない。


 だが。


 拒絶ではない。


「……助かった」


 短く言う。


 私はそれを受け取る。


 言葉の意味。


 感情。


 完全には分からない。


 だが。


 理解できる部分がある。


 私は頷く。


「問題の解消」


 そう答える。


 彼は苦笑する。


「まあ、そうだな」


 それで終わる。


 だが。


 そのやり取りを。


 カインが見ていた。


 少し離れた位置で。


 彼は近づいてくる。


「……今の」


 短く言う。


 私は顔を向ける。


「判断か」


「観察の結果」


 私は答える。


 正確に。


 彼は少しだけ笑う。


「前よりはマシだな」


 その評価。


 私は受け取る。


 そして。


 理解する。


 これは。


 昨日とは違う。


 ただの“正しさ”ではない。


 人を見た上での判断。


 それが。


 結果に繋がっている。


 胸の奥で。


 あの感覚が。


 少しだけ、強くなる。


 昨日よりも。


 はっきりと。


 これは。


 何だろう。


 私はそれを観察する。


 だが。


 まだ、言葉にはならない。


 ただ。


 一つだけ。


 確かなことがある。


 ——これは。


 間違っていない。


 私はそう思う。


 初めて。


 確信に近い形で。


 そう、思った。

第20話までお読みいただきありがとうございます。


ここで主人公は初めて、

「人を見た上での行動」で結果を出しました。


小さな成功ですが、

これが“正しさとは別の手応え”です。


読者にとっても、ここは一つのカタルシスになっているはずです。


次話では、さらに一歩進み、

「周囲からの評価」が明確に変わります。


少しでも続きが気になった方は、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです。


ここから、主人公は“人の中で動く力”を手に入れていきます。

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