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婚約破棄された令嬢、辺境で「半分を見捨てる決断」をする 〜全員を救えない世界で、彼女は最善を選ぶ〜  作者: 結城ヒナ


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第10話 辺境行き

 その知らせは、あまりにも整った形で届いた。


 王宮からの正式文書。


 厚手の紙。

 正確な文言。

 無駄のない構成。


 私はそれを机の上に置き、目を通す。


『ヴァルディス家に対し、辺境領における治水および食糧管理の改善を命ずる』


 簡潔な命令。


 続く文面には、形式的な理由が並ぶ。


 ——近年の被害増加。

 ——領民の不満。

 ——早急な対応の必要性。


 どれも、正しい。


 だが。


 それだけではない。


 私は読み進める。


『なお、本件については、エレノア・ヴァルディスを責任者とする』


 そこで、手が止まる。


 ほんの一瞬。


 だが、確かに。


 私はその一文を、再度読む。


 ——責任者。


 つまり。


 私が行く。


 それが、この文書の本質。


 私は紙を置く。


 思考を巡らせる。


 合理性。


 必要性。


 そして。


 ——意図。


 これは。


 問題解決のための人選か。


 それとも。


 別の目的か。


 私は結論を出す。


 ——両方だ。


 確かに、私は適任だ。


 知識も、判断力もある。


 だが同時に。


 王宮から距離を置く理由としても、最適だ。


 ——排除。


 その単語が浮かぶ。


 しかし。


 それは問題ではない。


 重要なのは。


 任務があること。


 そして。


 それを遂行できること。


 私は立ち上がる。


 父の執務室へ向かう。


 ノック。


「入れ」


 短い声。


 私は中へ入る。


 父はすでに文書を手にしていた。


「……読んだか」


「はい」


 私は答える。


「適任です」


 その一言に、父の眉が動く。


「……そう思うか」


「はい」


 私は続ける。


「現状の問題を解決するには、合理的な手法が必要です」


 感情ではなく、構造。


 それを扱えるのは、私だ。


 そう判断する。


 だが。


 父は、しばらく何も言わない。


 そして。


「……これは」


 低く言う。


「追い出しだ」


 その言葉は、明確だった。


 私はそれを受け取る。


 意味を理解する。


 だが。


 問題はない。


「結果的に、そうなります」


 私は答える。


「ですが、任務は存在します」


 重要なのはそこだ。


 父は私を見る。


 じっと。


「……お前は」


 言葉を探すように。


「本当に、それでいいのか」


 また、同じ問い。


 私は答える。


「はい」


 変わらず。


「現状を考えれば、最適です」


 それが結論。


 だが。


 父は目を閉じる。


 深く息を吐く。


「……三日後に出発だ」


「承知いたしました」


 それで、話は終わる。


 私は一礼し、部屋を出る。


 廊下を歩く。


 思考を整理する。


 辺境。


 治水。


 食糧管理。


 問題の構造は想定できる。


 対応も可能だ。


 ——問題ない。


 そう判断する。


 だが。


 その時。


 胸の奥で、あの感覚が。


 また、動く。


 少しだけ。


 昨日よりも、明確に。


 私は足を止める。


 その感覚を追う。


 これは。


 何だ。


 不安か。


 違う。


 恐怖か。


 違う。


 では。


 ——違和感。


 その言葉が、浮かぶ。


 私はそれを受け入れる。


 そして、考える。


 なぜ。


 辺境に行くことに。


 違和感を覚えるのか。


 任務は合理的だ。

 判断も正しい。


 それなのに。


 何かが。


 引っかかる。


 私は目を閉じる。


 思考を巡らせる。


 そして。


 ゆっくりと。


 一つの結論に至る。


 ——私は。


 初めて、“選ばれていない”。


 その事実。


 これまで、常に“選ばれてきた”。


 王妃候補として。


 最適な人材として。


 必要とされる存在として。


 だが、今は違う。


 これは。


 選ばれたのではない。


 ——外された。


 その認識。


 それが。


 胸の奥で、静かに広がる。


 私は目を開ける。


 廊下は、変わらない。


 屋敷も、変わらない。


 だが。


 自分の位置だけが。


 確実に、変わっていた。


 私は歩き出す。


 足取りは、一定。


 姿勢も崩れない。


 だが。


 その内側で。


 何かが、わずかに軋んでいた。

第10話までお読みいただきありがとうございます。


ここでついに舞台が動き始めました。

主人公は“任務”という形で辺境へ向かいますが、その裏にある意味も見えてきています。


「選ばれ続けてきた人間が、初めて選ばれなくなる」


この変化が、この先の物語を大きく動かします。


次話「王宮の外」では、主人公が初めて“管理されていない世界”に触れます。

ここから一気に物語の空気が変わります。


少しでも続きが気になった方は、ブックマークや評価をいただけると嬉しいです。


ここからが、本当の“衝突”の始まりです。

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