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【第1章完結】定時上がりの複業文官~残業しろ? いや、そっちの仕事は副業なので~  作者: 晩夏ノ空
第2章

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47 パイソンとウルフ

区切りの関係で今回分は短めです。

次回更新分(2月23日13時予定)は結構長めですので…!




「パイソン、居る? 急患!」


 流石に、オウルみたいに人を抱えながら自分でドアを開けることはできなかった。

 救護室の前で声を上げると、がさごそと音がして、すぐにドアが開く。

 顔をのぞかせた白髪の老人、名持ちの狩人の一人『パイソン』は、オウルを横抱きにする私を上から下まで見回して、ほっほーう、と笑う。


「今度はオウルか。役得じゃのう?」

「…何がだ」


 オウルの声が低い。


「損か得かはどうでもいいから。パイソン。オウル、熱があるみたいなんだけど」

「ほう…?」


 パイソンが片眉を上げ、入れ、とドアを全開にしてくれる。救護室に足を踏み入れると、消毒液のような独特の匂いが鼻をついた。


「熱があるんだって?」


 室内には先客がいた。私たちと同じ名持ちの狩人、討伐部隊の実質的なトップを務める、『ウルフ』。

 もっとも、その名を象徴する狼の仮面は、今は黒マントと一緒に棚のカゴの中に置かれている。素顔を晒しているのを見るのは久しぶりだ。


「定期健診?」


 オウルをベッドに寝かせてから振り返ると、ウルフが苦笑する。


「怪我とか体調不良かも知れんぞ? 俺も」


 鉄色のツンツン頭に赤褐色の瞳。黒いアンダーシャツの上からでも分かる筋肉質のがっしりした身体には傷一つないし、ニヤニヤしている顔に疲労の色は見えない。

 上から下まで確認して、私は平坦な声で応じた。


「そう言ってるうちは健康だと思うよ」


 ウルフ──本名、ヴォルフガング・エイギス。エイギス伯爵家当主にして、共立学校の魔法学非常勤講師。私を狩人の世界に引きずり込んだ張本人である。付き合いはオウルより長い。

 それこそまさに体調不良とは無縁そうな筋肉が、わざとらしく天を仰いだ。


「信頼が重いぜ。俺もこう、ここんとこ腰とか肩に痛みがだな」

「それは体調不良じゃなくて加齢」

「ぐふっ」


 ウルフが胸を押さえて後退った。私はそれを冷ややかに見遣る。

 この男、こういう時に悪ノリするから性質が悪いのだ。


「あっ、今冷たい目で俺を見てるだろ。仮面つけてても分かるぞ!?」

「ハイハイ」


 適当にあしらい、私はオウルを診ているパイソンに向き直った。


「…どう?」

「結構な高熱じゃな。しかしよく気付いたのう?」


 流石に諦めたのか、仮面とマントをはぎ取られたオウル──ルーカスは、力なく目を閉じている。

 顔全体は青白いのに、目元と頬は赤い。無理をしていたのは明らかだった。


「なんか熱かったし。あと、距離の詰め方とか言動がちょっと変だなと思って」

「ほほーう? つまり体温の分かる距離だったと」

「ヴォルフガングは黙ってて。邪魔」

「……俺、お前の師匠なのに……」


 魔法の師であることは確かだが、茶々入れに反応するかは別の話である。


 よよよ、とわざとらしく泣き崩れる筋肉は綺麗に無視する。他の狩人たちの前ではいかにも頼りになりそうな兄貴風を吹かせるくせに、名持ちの狩人だけだとすぐこれだ。いい加減慣れたが。

 パイソンもそちらを見遣って片眉を上げただけで、すぐルーカスに視線を戻した。


「解熱剤を飲んで帰って大人しくしとるか、ここで入院するかの二択じゃな」


 パイソンの言葉に、ルーカスが薄目を開けた。


「…帰って寝る」


 私は反射的に口を挟む。


「パイソン。さっきこいつ、自力で立てなかったのに仕事を続行するとか言ってたんだけど。このまま帰らせたら、明日フラフラのまま普通に見張り台に上るんじゃない?」

「…入院一択じゃな」


 パイソンが目を細めて選択肢を捨てた。ルーカスが恨みがましい目でこちらを睨む。


「…キャット」

「…」


 私は溜息をつき、仮面を外した。

 ベッドに近付いて身を乗り出し、ルーカスの顔の横に右手をつく。


 至近距離で見詰めるルーカスの紫紺の瞳に、私の顔が映った。全く、欠片も、可愛げがあるとは言えない仏頂面だ。

 …よくもまあ、ルーカスも()()()()を選んだよね。

 一周回って変に感心しながら、私はルーカスを睨みつける。



「これ以上婚約者に心配かけたくなかったら、ここで大人しく寝てて。よろしい?」


「──」



 ルーカスの目がゆっくり見開かれていく。

 何か反応が返ってくる前に、私は素早くベッドから離れて背を向け、仮面をつけ直した。

 顔どころか全身が熱い。くそう、慣れないことするもんじゃなかった…!


 視界の端に、にやけ顔のヴォルフガングがいる。その顔面に2式ファイアボールを叩き込もうかと魔力を巡らせたところで、ペンダントが振動した。


《7番よりキャットへ! 上級デモンが出現しました! 申し訳ありません、対処をお願いします!》


 今日、私と同じシフトに入っている討伐部隊の狩人たちでは、上級デモンに対処できない。私は息を吐き、顔を引き締める。


「キャット、了解。他の連中には、隔離地内へ入らないように言っておいて。──根こそぎ消し飛ばすから」

《しょ、承知しました!》


 このフラストレーションはデモンにぶつける。そう決意して呟いたら、意図せずドスの利いた声になった。

 ビクついた声で返答する7番に内心謝りつつ、私は足早に扉へ向かう。


 ドアノブに手をかけ、一度だけ振り返って、


「パイソン、あとはよろしく。ちゃんと休んでてよ、ルーカス!」


 言うだけ言って、部屋を出た。










たとえ恩師であろうと同僚のことは呼び捨てするスタイル(本人了承済み)。

…敬意が無いわけじゃないですよ? ええ。



そして本日は猫の日ですね!

更新話にケットシーのウィッカ様を出せなかったのが心残りですが…!

この世の全ての猫様に幸あれ!!!




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