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【第1章完結】定時上がりの複業文官~残業しろ? いや、そっちの仕事は副業なので~  作者: 晩夏ノ空
第2章

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43 指輪の依頼主


「婚約指輪と結婚指輪を両方魔鉱細工で揃えるのは、難しかったものですから。ほら、結婚指輪には石入れや刻印もしたいでしょう? だから婚約指輪は、プラチナの中で一番お互いの指に合うものを選んでいただいたんですの」

「一緒に買い物に行ったの? 良いじゃない!」

「それじゃあもしかして、結婚指輪は魔鉱細工? 石を入れて、刻印も有りの!」

「その予定ですわ」

「素敵!」

「私も魔鉱細工の結婚指輪欲しいー!!」


 女性陣が叫び始めた途端、男性陣がそっと後退った。


 気持ちは分かる。

 魔鉱細工は金銀プラチナよりはるかに高い。さらに宝石がついて刻印も入るとなると、平民ではまず買えないくらいの値段に跳ね上がる。

 貴族にとってはステータスになる品だが、実際問題、ホイホイ買える代物ではないのだ。


 ましてペアリングとなると、単純計算でお値段2倍。

 基本、婚約・結婚の宝飾品は男性が贈るものとされているから、男性陣の腰が引けるのは仕方ない。

 だからこそ、アナスタシアの婚約者の本気度が分かる。

 分かる、のだが──


 私は背中に冷や汗が流れるのを感じつつ、アナスタシアに訊いてみた。


「その指輪買ったお店って…?」

「セラム商会の『月の雫』ですわ。セラフィナも行ったことがありますでしょう?」


 あっ、イヤな予感。


「じゃあ、結婚指輪も『月の雫』で?」

「ええ。石入れと刻印をお願いしてありますの」


 大変幸せそうなアナスタシアの答えを聞いた瞬間、背中にブワッと汗が噴き出した。

 …セラム商会の『月の雫』が扱っている魔鉱細工。そして、石入れと刻印をお願いしている指輪。


「良いわねぇ! 宝石はやっぱり、お相手の目の色とか?」

「そうですわ。私の方の指輪にはエメラルド、婚約者の指輪にはピンクサファイアを入れる予定ですの」

「素敵!」

「見せつけてくれるわねえ! もう!」


 女性陣が笑顔で騒いでいる。

 …うん。『月の雫』で扱ってる魔鉱細工の指輪に、エメラルドとピンクサファイア、そして刻印、ね…。


 ついこの間、初の売り上げと共に渡された魔鉱細工の指輪2本の再加工依頼を思い出す。

 あれも、刻印の追加と色石の象嵌(ぞうがん)だった…なあ…。石は、透明度の高いエメラルドと、鮮やかなピンクサファイア。

 …一緒、だね……。


「ねえ、何て刻印するの? 定番だと、2人の名前とかイニシャルよね?」

「いえ、その、少し恥ずかしかったので…「幾久(いくひさ)しく、共に」と」


 グフッ。


 喉の奥で変な声が出かかった。

 ……確定だ。


 アナスタシアとお相手の結婚指輪になる予定のやつ、今、ウチにあるよ……!!


「あまーい!」

「ラブラブじゃないの!」

「幸せ者ー!」


 アナスタシアを囲む女性陣がひたすら楽しそうだ。

 必死に表情を整えていると、恥ずかしそうに、でも幸せそうに頬を紅潮させたアナスタシアがこちらに向き直った。


「セラフィナだって、きっとすぐに──あら? 大丈夫ですの? 顔色がよろしくありませんわ」


 途端に心配そうな顔になる。私は慌てて手を振った。


「大丈夫大丈夫、ちょっとぼーっとしてただけ。今の指輪も素敵だし、結婚指輪もきっとアナスタシアに似合うね」


 笑顔で言う。

 これは本心だ。今ウチにある指輪はかなり細いから、彼女にはきっと合う。


「ふふ、ありがとう。私も仕上がりを楽しみにしていますの」

「魔鉱細工だものね。きっと腕利きの職人が完璧に仕上げてくれるわよ」


 ちょっ、ハードル上げないで!?


「あの店、今はちゃんとした魔鉱細工のアクセサリーも扱ってたのね! 私も今度行ってみようかしら」


 ちゃんとした、って…。


「結婚指輪も、出来上がったら──っていうか、結婚したら見せてね!」

「式の日程は決まってるの?」

「式は後々、落ち着いてからと思っておりますの。入籍は…指輪が出来上がり次第、でしょうか」


 なに!?


 思わぬ発言に、声が出るのをギリギリで押し留める。

 アナスタシアは幸せそうに続けた。


「…といっても、仕上がり日は未定なのですけれど。私としては、婚約期間をしばらく楽しみたいような、早く結婚したいような…複雑ですわね」

「分かるわ。私もそうだったもの」

「貴女、婚約者に「いいからさっさと婿に来い!」って言ってなかった?」

「それは──」


 同僚たちの話が脱線していく中、私は一人、背中にびっしょりと汗をかいていた。


 ヤバい。プレッシャーが。ど、どうしよう……!?

 アナスタシアの結婚が、『指輪待ち』だったなんて…!!






「お師匠様ウィッカ様女神様ー!!」


 その日、何とか動揺を押し殺して定時に業務を終え、私は全速力の競歩で家に帰ってきた。

 本当は走りたかったのだが、通勤服でそれはやめとけ、とギリギリ理性が勝った。ちょっと身体強化魔法を使った気もするが。


《帰って早々うるさいわよ、セラ》

「ごめんなさい。じゃなくて!」


 いかにも迷惑そうに耳をぺたんと伏せるウィッカに、私はざっとアナスタシアの指輪の件を説明する。

 するとウィッカは、軽く首を傾げた。


《そう。なら、貴女がさっさと指輪を再加工できるようになれば済む話ね》

「簡単に言うね!?」

《事実だもの》


 くそう、真理をついてきおって…!


 ウィッカはさらりと言っているが、現状、まるっきり再加工の目途は立っていない。

 とりあえず、石の嵌め込み方は教えてもらった。が、実力がついていかないのだ。

 刻印の方は、「最低限、石をすんなり嵌め込めるようになってから」と言われて方法すらまともに教えてもらっていない。難易度が段違いに高いからだそうだ。


《悔しがってる暇があるなら練習なさい。でないと、いつまで経っても結婚指輪を納品できないわよ》


 ……ごもっとも。









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