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【第1章完結】定時上がりの複業文官~残業しろ? いや、そっちの仕事は副業なので~  作者: 晩夏ノ空
第1章

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35 平和に解決…した、はず。


 一方で、信用に値しないと面と向かって言われたのに、領主は薄らと笑みを浮かべたままだった。

 怒っている感じでも呆れている感じでもないのが正直不気味だ。


「──なるほど、一理ある」


 領主が口を開くと、場の空気が再び引き締まった。


「申請書が本人のものではないことは確かなようだ。これは無効だな。──セラフィナ・アッカルド、其方(そなた)は今後、アッカルド孤児院へ寄付を続ける気はあるか?」

「ありません。私の給与は私のものです」


 今までの『寄付』だって私の意志ではなかった。私がきっぱり言うと、領主は面白そうに目を細める。


「育てられた恩を感じてはいないのか?」

「恩を感じることと、搾取を黙って受け入れることは違います。私を育てるのに使った金を返せと言うなら、今まで私の給与から天引きされていた金額で十分でしょう。それを返せとは言いません。これからは断固拒否しますが」

「…本当にそれで良いのか?」


 まるで就活の圧迫面接だ。口元は笑みを浮かべているのに、目の奥は笑っていない。

 私は息を吸い、一気に言い放った。


「そもそも孤児の養育は領主や街の統治者が税金で(まかな)う公共事業であって、各個人の善意に依存した慈善事業ではないはずです。──育てられた孤児は、大人になれば税金を納める側に回ります。恩を感じていれば自分から寄付をすることもあるでしょう。それで十分ではありませんか?」

「…」


 領主が意味ありげに沈黙する。


 待つこと暫し。


「──正解だ。給与からの寄付は来月分から撤廃しよう」


 領主がとても満足そうに微笑み、場の空気が緩んだ。


 私だけでなく、周囲のお歴々も安堵の表情を浮かべている。領主の圧迫面接は老害連中にもプレッシャーを与えていたらしい。


 領主は笑顔で話題を変えた。



「それにしても、名持ちの狩人としての実力と魔力量、文官としての能力、政治への理解、どれを取っても優秀だな。そういえば共立学校在学中は常に奨学生の座を維持していたのだったか。──どうだ? うちの息子の」


「それ以上言ったらこの場で6式魔法ぶっ放しますよ」



 その台詞、どう考えてもさっきの人事部長の提案と同じ。


 警告の言葉と共に魔力を解き放つ。

 ウォン! と音を立てて私の頭上に浮かんだ魔法陣を見て、周囲を囲っていたお歴々が一斉に逃げ出した。何人かは真っ青になって壁にはりつき、何人かは悲鳴を上げる。



「………冗談だ」



 領主は椅子に座ったまま、そう呻いた。

 魔法陣を凝視して、あくまで笑顔を維持したまま、額に脂汗を浮かべている。


 …最初からこうしておけばよかったな。

 右手をサッと払うと、魔法陣が消えた。壁にはりついていた何人かが、へなへなとその場にうずくまる。


「私の人生の選択肢は、私のものです。結婚するもしないも、私の自由。それを侵害するなら貴族だろうと領主だろうと私の敵です。文官に相応しくないと言うなら構いません、さっさとクビにしてください。私は何も困りませんので」


 言うだけ言って、私はくるりと踵を返す。


 呼び出された理由が「ウチの嫁になれ」だったのは完全に予想外だったけど、この件はこれでもう終わりだ。


 実際、ドアが閉まるまで、呼び止められることはなかった。






 その後代筆課に戻ると、課員のみんなにとても心配されていた。

 とてもじゃないけど息子と結婚しろだの養女になれだの言われたなんて報告できないので、とりあえず今すぐにクビって話じゃなかったと説明したら、みんな安堵の表情を浮かべた。

 聞けばアナスタシアは会議室に乗り込もうとしていたらしい。課長と他の面々が説得して思い留まったようだけど…意外と情熱家だなあ…。


「ご自分の進退のことですのよ!? もう少し真面目に考えてくださいまし!」

「えーと…ゴメン?」

「首を傾げて言うことではありませんわ!」


 仕事は半分くらい他の人が請け負ってくれていて、もう処理したから大丈夫だと言っていたのでそのまま甘えさせてもらう。

 代わりに、貰い物の甘味の処理を手伝ってくれと言って、お菓子を配り歩いておいた。


「全部自分で食べないの?」

「いや、量が多すぎて…」


 結構賞味期限が短いものもある。

 課員からの貰い物はちゃんと自分で食べるけど、他の課の人たちから貰った箱入りのお菓子とか、どう考えても美味しく食べられる期限に間に合わない。だってこの世界、保存料とかないし。


「…そういえば、この課の人たちから貰った物は結構日持ちするやつばっかりだな…?」

「あ、それ、アナスタシアが考えたのよ。ウチの課以外にも絶対セラフィナにお礼を持ち込む人がいるだろうから、困らない物にしようって」

「アナスタシア…ありがとう。本当に助かる」

「れ、礼には及びませんわ! どうせ他の課の人たちはそういうところまで考えが回らないだろうと──じゃなくて!」

「分かってる分かってる」


 代筆課の事務所に、笑い声が満ちる。


 こんな日が来るなんて、今まで想像もしなかった。



 ──そうして、とても晴れやかな気分で仕事を終え、この日は代筆課の全員が定時に帰った。

 色々あったけど、とても良い1日だったと思う。












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― 新着の感想 ―
領主としてはあきらかな不正を放置しておくのはまずいだろ。教育機関のトップまで関わってるのに。
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