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定時上がりの複業文官~残業しろ? いや、そっちの仕事は副業なので~  作者: 晩夏ノ空


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26 6式魔法


「…ら、らくに…」


 熱に浮かされたようなデイヴィッドの声。

 私は咄嗟(とっさ)に、奥歯を思い切り噛み締めた。口の中にサッと血の味が広がり、ほんの少しだけ頭痛が引く。


 声ならぬ声は、ひたすら頭の中に響いている。

 誰に聞かせるでもない言葉と行き場のない感情。それは多分、誰もが少なからず持っているものだ。


 でも──いや、だからこそ。


 反発するように胸の中に膨れ上がった感情がある。私は一歩踏み出し、大きく息を吸いこんで──()えた。



「こっちは毎日忙しいんだよ! 手前ェの感情を押しつけるな! 仕事の邪魔だ!!」



 一気に魔力を放ち、魔法陣を展開する。

 既に魔力が底を尽きかけているが、構うものか。こいつらだけは確実に殲滅(せんめつ)してやる。


 複業してることは秘密だったのに、この騒ぎでバレてしまった。しかも今日の文官仕事が滞っている。せっかく今日も定時で上がれそうだったのに。


 どこかの誰かの嘆きを聞いたからか、今になって怒りがわいてきた。


 仕事の邪魔をする人外、許すまじ。



 ──ケタ。タタタ。



 私の殺気と魔力に反応して、屋根の上のデモンがぬるりと起き上がった。

 やはり人型──しかも、足元から水漏れするように黒い塊が広がり、全く同じ姿、全く同じサイズのデモンが増える。


 私の魔法が完成する前に、明らかに上級以上と思われるデモンは、8体に増えた。


「拡張、4連」


 上級以上だから何だ。1体たりとも逃がすつもりはない。

 私はさらに魔力を注ぎ込み、魔法陣を4つに増やす。


 ──そして。


 8体のデモンが一斉に屋根を蹴り、中庭に飛び降りてこちらに突進してきた。


 迫りくるデモンの群れに、デイヴィッドが悲鳴を上げる。まだ──あと少し。



 …!



 先頭のデモンが掲げた腕を振り下ろすと──ぐん、と腕が伸びた。

 咄嗟に避けるが、鋭く尖った先端が左肩に突き刺さる──いや。


「…っ!」


 黒い腕はペンキをぶちまけたように、肩の表面に広がっていた。服にしみ込み、氷のような冷たさが皮膚を侵食する。

 どこかの誰かの嘆きが頭の中に流れ込むと同時に、魔力が流れ出していくのを感じた。デモンに吸収されているのだ。


「…っんの…!」


 魔法陣が一瞬揺らぐ。それを気合いで繋ぎ留め、私は叫んだ。



「6式4連、コキュートス!」


 ヴォン!



 私の目の前で、4つの魔法陣が巨大化して転移し、デモンを囲う。

 肩に貼りついていた黒い腕が魔法陣に分断され、千切れて跳ね飛び、崩れ去った。


 魔法陣の檻の中に閉じ込められたデモンは、こちら側の魔法陣にぶつかって跳ね飛ばされる。そのうち何体かはすぐに立ち上がり、魔法陣のような奇妙な文様を空中に展開した。


 が──それが変化を起こす前に、私の魔法が発動する。



 ──ィィィイイイイイ!



 甲高い音と共に、4つの魔法陣が真っ白い光を放った。


 光は数秒でおさまり、魔法陣も溶けるように消える。

 そうして残されたのは──青白い氷の塊に包まれたデモンの群れ。


 ──パキン


 その氷に、大きなひびが入った。ピシパキと音を立ててひびはどんどん増え、やがてガラガラと崩れていく。

 氷の破片は、地面に落ちる前に空中で消えた。デモンも氷と一緒に砕け、崩れ、霧散する。


 そうして全てのデモンが消えると、強い風が吹き、中庭を満たしていた極寒の空気が吹き散らされた。

 そのまま身構えていると、ゆっくりと夏の空気が戻ってくる。


 とりあえず、これで終わりのようだ。もう一度周囲を見渡した後、私は少しだけ肩の力を抜く。

 気付けば全身が冷え切っていた。左腕は、肩から指先までの感覚がない。我ながらよくこんな状態で6式魔法を使えたな。


 ふと前を見ると、薄紫色のマナタイトと、黒っぽい石がいくつか転がっていた。魔法金属の原石だ。


 これだけ頑張ったんだから多少なりとも見返りが欲しい。そんなことを思いながら一歩踏み出した瞬間、ドクンと強い鼓動を感じ──視界が暗転した。


「あ」


 頭が揺れ、膝から力が抜ける。


「…!」


 前のめりに倒れる直前、力強い腕が私を抱きとめた。

 ……こんなことができる人間、近くにいただろうか。


「…本っ当に、お前は…!」


 すぐ近くで聞こえたのは、オウルの声だった。目を閉じているから、姿は確認できないけれど。

 一体いつの間にここまで来たのか。とりあえずすごく怒っている。


「どれだけ無茶したら気が済むんだ!?」


 そんなこと言われても。


 どうやらオウルは、私がコキュートスをぶっ放すところを見ていたらしい。まあ6式の4連同時発動なんて普通はやらないよね。魔力消費が段違いだから。

 でも人には時として、無理を押してでもやらなければならないことがあるのだ。


「後悔は…して、いない」

「しろよ、少しは」


 なるべくキリッとして答えたら、心底呆れた声で返された。


「お前、魔力切れどころか()()()()起こしてるだろ。自覚、あるか?」

「あー…やっぱ、り?」


 オウルの指摘に、私はへらりと笑った。途切れ途切れにしか喋れないし、声がかすれる。身体に全く力が入らない。


 魔力切れは単純に魔法が使えないくらい魔力を消費した状態。

 魔力枯渇はそこからさらに一歩進んで、日常生活や生命維持に支障があるレベルまで魔力を使ってしまった状態を指す。

 魔力切れは時間経過でわりとすぐ回復するし身体も普通に動かせるが、魔力枯渇までいくと動けなくなる。というか倒れる。


 なるほどこれが魔力枯渇か。初めての体験だ。

 一周回って感動していると、


「やっぱり? じゃない! 死ぬ気かお前は!」


 再度、滅茶苦茶怒られた。せっかく頑張ったのに理不尽だ。

 私が内心不満を述べていると、オウルは深々と溜息をつく。そして、


「っ?」


 急にぐるんと身体が回転し、地面に足をついている感覚がなくなった。


 重い(まぶた)を何とかこじ開けると、オウルの意外と分厚い胸板が見える。どうやら私は横抱きにされているらしい。マジか。


「とにかく、治療できる所に行くぞ」

「待って…せっかく、鉱石……」


 デモンが落とす魔法金属の原石は貴重なのだ。持って帰りたいと何とか主張すると、オウルは舌打ちした。

 何故だろう、オウルが急速にガラの悪い男になってる。


「おいお前、45番だろう」


 オウルはデイヴィッドに顔を向けた。「へっ!?」と声を上げたデイヴィッドは、地面にへたり込んだままだ。一応正気に返ってはいるようだが。


「その辺に落ちてる鉱石を拾って後で管理事務所に持ってこい。あと、こいつは俺が連れて行く。領主館の管理職には適当に報告しておけ」


 さらに、


「──オウルより各位へ。状況は終了した。民間人を護衛していた者は安全確認後、全員元の場所に帰し、解散。報酬は後日清算する。…緊急対応に感謝する。以上」


 私を抱えたまま器用にペンダントを手に取り、オウルが告げると、自分のペンダントを通して同じ言葉が脳裏に響いた。三々五々、了承を告げる通信が返ってきて、前庭の方がにわかに騒がしくなる。


 ばさりとマントを翻し、オウルが歩き出した。出入口ではなく、真っ直ぐ壁の方で向かっている。屋根の上を走る気だ。


「お前は目を閉じて、少しでも休んでおけ」

「……ん…」


 ひどく身体が重い。正直、目を開けているのもきつい。

 私は素直に指示に従い、オウルの胸板に頭を預けた。背中と膝裏に回されたオウルの腕に、ぐっと力が込められる。


 力強い感触に、私は不意に心の底から安堵した。


 デモンは倒した。同僚たちも、きっと無事だ。

 後のことは、多分相当面倒だろうけど、オウルに任せておけばきっと何とかしてくれる。











ベタな展開は、好きですか?


私は好きです(キッパリ)





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