表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
白銀の魔弾は、孤高の騎士の心を溶かす  作者: 万里小路 信房


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

4/4

4、忠誠の代償と、氷解のキス

 モーリッツの活躍は、絶望的な前線で戦う大公国兵士たちの間に、「銀狼の誓い」の確信を与えた。彼の活躍は大公国に勝利の確信を与え、ネーレの指揮する部隊の評価も高まった。


 モーリッツが数日ぶりにネーレの指揮所に現れ、戦果を報告した。敵陣の奥深くまで侵入し、偵察と狙撃を行ってきたという、いつもの報告だ。


 その報告が終わったあと、二人きりになった指揮所の暖炉の前で、モーリッツは弓の手入れをしている。ネーレは古い英雄譚の本の文字を追うのと同じ集中力で、彼の大きな手と寡黙に作業を続ける横顔を観察していた。


 ふと思いついたように、ネーレがお茶を淹れ、そのカップをモーリッツに手渡す。モーリッツは言葉なく受け取り、一瞬だけネーレの目を見てから、再び弓に戻る。この時間がネーレにとっての唯一の安らぎだった。


 しかし、二人の関係が主従の枠を超えようとした矢先、運命は牙を剥いた。


 モーリッツは、帝国魔術師の放った火球の直撃を受け、重傷を負った。モーリッツは指揮所に運ばれ、ネーレはそこで変わり果てたモーリッツと再会した。


 ネーレの最古参の部下、古参兵アニタが、悲痛な表情でネーレを支えた。


「姐さん、持ち場は私が死んでも守ります。モーリッツは、助かりますよ!」


 朦朧とする意識の中、モーリッツは最後にネーレの白銀の髪と、悲痛な瞳を見た。


「隊長、私の任務は、あなたの安全でした。……ラズライトは……持ちます。銀狼の誓いは、……まだ……」


 彼は、瀕死の状態で後方へ送られた。ネーレは、深い悲しみと、彼を単なる従士として扱っていた後悔に打ちのめされながらも、彼の残した精神と、二人が築いた深い信頼の絆を胸に、停戦までの数日間、ラズライト川の陣地を死守し続けた。


 戦争が終わり、部隊の処理を片付けるとネーレは飛ぶようにしてモーリッツの元へ駆け付けた。数日前に意識を取り戻していたと聞いていた。病室のなか、ネーレを見て、彼が傷跡の残る痛々しい顔で微かに笑うのが分かった。彼女は耐えきれず、彼にすがりついた。


「もう、あなたを戦場には戻さない」


 ネーレは泣きながら、命令するように感情を爆発させた。モーリッツは黙って彼女の手を握る。その大きな手のひらから、ネーレは戦場で何度も彼女を守ってきた革のように硬く荒れた皮膚の感触を感じた。二人の関係はついに指揮官と部下から愛へとかわった。


 ネーレが贈った誓いのキスは、極寒の地で凍りついていた二人の関係に、初めての春をもたらしたのだった。


 騎士と猟師、二人には平時では出会うこともないだろう身分差があったが、戦争の英雄同士のロマンスは大公国すべての者たちから祝福されたものとなった。


 大公国は結婚に際し戦争中の勲功を称え、モーリッツに騎士位を授与した。


 ラズライト川の戦いは、個人の卓越した技能と不屈の精神が、いかに敵の物量を打ち破り、厳しい運命に立ち向かえるかを示す、不滅の伝説となったのである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ