第98話 目覚める古代の意志
轟音が響き渡る海底神殿。
壁に刻まれた古代文字が光り、青い粒子が宙を舞う。
カイルは必死に魔力制御を行いながら、コアへの干渉を中断しようとした。
「制御が……効かない!? コアの方が、逆に解析してきてるっ!」
装置の魔法陣が歪み、データが逆流する。
カイルの脳裏に、膨大な情報と映像が一瞬にして流れ込んだ。
文明、戦争、崩壊、そして、“創造者”の記憶。
『カイル! 精神干渉中、切断セヨ!!』
「待って……! まだ、見える……!」
光の中に、女性の姿が再び現れた。
それは先ほどの幻影よりもはっきりと、形を持っていた。
髪は水のように揺れ、瞳には星の光が宿る。
彼女は静かにカイルを見つめ、言葉を発した。
声は直接、頭の奥に響く。
(ここは、私たちの“終焉”の記録。あなたたちは……外の者?)
「外の……? ああ、そうだ。地上から来た。あなたは、誰なんだ?」
(私は……このダンジョンの管理者。“人類がまだ海を越えられなかった時代”に作られた人工知能体……そして、“最後の記録者”でもある)
カイルは息を呑んだ。
人工知能。
つまり、ダンジョンそのものが彼女の記憶をもとに形成されているということか。
「じゃあ、このダンジョンは……あなたが作った?」
(違う。私は“止めるため”にここへ残された。かつて、私たちはこの世界を侵食するコア生命体を封印した。けれど、封印は……限界に近い)
その瞬間、コア全体が大きく脈動した。
海底の石壁にヒビが走り、青光が赤へと変わる。
『息子、エネルギー波動上昇、危険!』
「封印が……解けかけてる……!?」
(あなたがここに来たということは、地上がまだ滅んでいないのね。……お願い。コアを安定化させて)
「どうやって!?」
(あなたの“創造式”を、私の中へ流して……あなたの世界の魔導構築式と、この古代技術を“接続”して)
カイルは即座に理解した。
自分のゴーレム術式をコアに重ね、封印機能を再構築する。
それは理論上可能だが成功率は低い。失敗すれば、神殿ごと爆発する。
父の光が点滅する。
『カイル、無茶。父、心配ケド、全力支援。』
「ありがとう、父さん。……キキ、補助魔法を頼む!」
「了解っ!」
キキが両手を掲げ、魔力の流れを安定化。
カイルは魔導装置を再起動し、コアと自身の術式を重ねた。
光と光が交わり、海底神殿が巨大な魔法陣と化す。
そして。
静寂。
青い光が再び穏やかに灯り、女性の姿も薄れていく。
(ありがとう……これで、しばらくは……眠れる……)
微笑と共に、彼女は光の粒となって消えた。
残されたのは、静かに輝く安定したコアだけ。
カイルは膝をつき、息を吐く。
「……間に合った、か」
父の光が淡く瞬いた。
『我ガ息子。……英雄。』
「はは……父さん、それは言いすぎ」
カイルは笑いながらも、その胸の奥で確信した。
このダンジョンの奥には、まだ“人と機械の歴史”が眠っている。




