第97話 海底神殿:ダンジョンコアの鼓動
戦闘の余波が消え、神殿の奥へと続く大扉が静かに開いた。
ひんやりとした潮の流れが流れ込み、淡い青光が通路を満たす。
カイルは人型鎧ゴーレムのライトを灯しながら、慎重に前へ進んだ。
父の骸骨ゴーレムと護衛機たちが後ろに続き、キキが光の魔法で周囲を照らす。
「……この奥、何かがある。空気が違う」
「うん、魔力が渦巻いてる。心臓の鼓動みたい」
通路の先、広大な空間が開けた。
中央には、巨大な水晶球が静かに浮かんでいた。
内部では青と金の光が螺旋を描き、まるで生きている心臓のようにゆっくりと脈動している。
「……あれが……ダンジョンコア……!」
カイルの目が輝く。
“ダンジョンそのものの意識”への接触が、今、手の届く距離にあった。
彼はゆっくりと手を伸ばし、解析用の魔導装置を展開する。
空中に複数の魔法陣が浮かび、数百のデータ線がコアへと伸びた。
『警告:未知の干渉を検知』
父の光が瞬く。
「わかってる、でも……これを逃すわけにはいかない」
カイルの額に汗がにじむ。
ダンジョンコアから、音にならない“声”が響いた。
“ここは、まだ眠りの底。触れるな”
カイルは一瞬、手を止めた。
だが、好奇心が勝った。
「眠り? じゃあ、目覚めさせたらどうなる?」
装置の出力を上げた瞬間、青い光が炸裂する。
空間が揺れ、天井の文様が一斉に輝いた。
カイルの魔導装置が自動防御を展開し、彼は吹き飛ばされる寸前で踏みとどまる。
『カイル、危険だ! 制御を切れ!』
「もう少しだけだ、父さん!」
その時、ダンジョンコアの中心に、人影のようなものが浮かび上がった。
女性の輪郭。長い髪が水流のように揺れ、声が響く。
(……外の……空……まだ……青いの……?)
カイルの息が止まった。
それは、明らかに“人間の記憶”が宿る反応だった。
「……コアに、人間の精神データが……?」
彼は呟き、光を見上げた。
だが次の瞬間、神殿全体が振動し始める。
『コアの防衛反応が起動! 戦闘態勢へ移行!』
「くっ、やっぱり触りすぎたか!」
コアの周囲に無数の光の槍が生成される。
まるで神が怒りを示すかのように、青の光が四方に走った。
「父さん、守勢だ! キキ、結界を張れ!」
再び戦闘態勢に入る一行。
しかし、カイルの瞳の奥には、恐れではなく確信が宿っていた。
このコアの中には、確かに“人の意志”が存在する。
それこそが、ダンジョンの謎を解く鍵に違いなかった。




