第95話 海底神殿:沈黙の間と古代の記録
戦いの余韻が静かに消えた。
海底神殿の奥は、まるで“時間”そのものが止まってしまったような静寂に包まれていた。
カイル、父、そしてキキは慎重に進む。
壁は滑らかな青黒い金属でできており、ところどころに古代文字のような模様が光を帯びている。
その光がまるで『ようこそ』とでも言うように、彼らを導いていた。
「……なんか、ここだけ空気がある?」
キキがヘルメット越しに首を傾げる。
確かに水がない。海底であるはずなのに、目の前の空間には重力のような“下”があり、呼吸すらできた。
「魔法的なドーム空間か……古代の技術ってレベルじゃないな」
カイルは呟きながら周囲をスキャンする。
その奥にあったのは、円形の巨大なホール。
天井には星空のような光が瞬き、床の中央には半透明の柱が一本、静かに立っていた。
『……解析不能。高密度魔力反応。』
父の胸の光が不規則に点滅する。
カイルは慎重に近づき、手をかざした。
すると柱の内部がぼんやりと光り出し、立体映像のようなものが浮かび上がった。
そこには、古代の人々らしき姿。
人間、エルフ、ドワーフ。
そして見たこともない種族たちが共に立ち並び、巨大な都市を築いていた。
その都市の中心には、あの“巨兵”そっくりの巨大ゴーレムが並んでいる。
「これ……古代文明の記録……?」
キキが息をのむ。
映像が変わる。
今度は黒い霧のようなものが都市を包み、人々が逃げ惑っている。
巨大ゴーレムたちは立ち上がるが、次々と倒れ、街は崩壊していった。
「……まさか、滅んだ理由が……」
カイルは映像を凝視する。
最後に、柱の中で“赤く輝く魔石”がゆっくりと映し出された。
『危険物反応。カイル、離レロ』
父の警告と同時に、ホール全体が震え出す。
壁の古代文字が一斉に赤く光り、低い振動音が響いた。
「しまった、記録装置が防衛モードに……! キキ、退避準備!」
「まさか、まだ動く機構が生きてるなんてっ!」
天井から巨大な球体が降下し、幾つもの赤い目が光る。
それはまるで神殿の番人そのものだった。
『侵入者、確認。排除開始。』
鋼の巨体が動き出し、音もなく空気を切り裂く。
カイルは歯を食いしばりながら叫んだ。
「……やるしかない! 父さん、キキ、戦闘準備だ!」
『了解。我、再戦ニ臨ム!』
「まったく……休む暇ないんだから!」
そして再び、海底の沈黙は砕け散った。




